第7章 赤色ドロップ
丸井の口から出た"彼女"という言葉に、妙に気恥ずかしく顔を真っ赤を通り越し最早まっかっかにしながら、名前は居てもたっても居られず視線を下へと落とした。
しかし、そんな事をしても逃れる事が出来るのは己の視界だけであって耳はしっかりと些細な物音をも拾い上げてしまう。
「彼女…?珍しいですね、丸井くんが彼女とは。久方ぶりに聞いた気がします」
「そりゃあな。久しぶりに、心の底から好きだって思ったから」
「…!」
ーーう、わ…!うわうわうわ…!
さらりと言われた丸井の言葉に、名前は床を見つめたまま、目を見開いた。
"心の底から好き"
丸井の口から出たその言葉に心臓が心地よく締め付けられ、びりびりと体に刺激が走った。
熱い頬に手を添えて、早鐘をうつ心臓に戸惑ってしまう。
ーーど、どうしよう…凄い嬉しい…。
素直な気持ちを心の中で吐露すれば、柳生の苦笑気味の笑いが耳に滑り込んできた。そりゃそうだろう。傍から聞いたらこんなの惚気でしかない。
気まずさと気恥ずかしさがまざり、視線をさ迷わせたが、それも次の柳生の言葉により綺麗さっぱりどこかへ飛んでいってしまった。
「苗字さんと一緒にいる理由は分かりましたが…丸井くん、再テスト者ですよね?放課後補習の方は?」
「は?放課ーー」
「放課後補習?!な、なにそれ?!」
聞いたことの無い単語に眉をひそめた丸井よりも大きな反応を示したのは名前だった。
補習、というものに産まれてこのかた遭遇したことがない名前にとってそれはちょっとした魅惑のワードであった。補習嫌だなーなんて呟くクラスメイトたちを見る度に、一度でいいからどんなものか受けてみたい、とひっそりと思っていたりする。
そして、そんな憧れと言っても過言ではない補習を、彼氏である丸井が受けるとはーーと、名前は少しだけ相手を恨めしそうに見つめた。
「…羨ましい」
「はぁ?」
ぽつりと呟いた名前のその言葉に、丸井は心底訳がわからないと言った表情をこぼした。そりゃそうだ、補習を羨ましがる奴なんて聞いたことない。
羨ましがる名前と、首を傾げる丸井をただじっと見ていた柳生だったが、暫くしてから吹き出すようにして笑い始めた。