第7章 赤色ドロップ
名前の首に腕を回し、すんすんと鼻を鳴らす彼女はやはり泣いているようだ。
友達が出来た事が余程嬉しかったのだろう。
須野は暫く名前に抱きついたまま離れず、その事に痺れを切らせた丸井が二人を引き離そうと手を伸ばしかけた時ーーふと、聞き覚えるのある声が耳に滑り込んできた。
「生徒会長…何をしているのですか?」
呆れたようなその声は低く甘いが、聞いたものはどこか背筋を正してしまいそうなきっちりとした言葉遣いだ。
反射的に三人の視線が声のした方へと向かう。
視線の先にいたのは、すらりとした体躯と乱れのないヘアスタイル、きちっと着こなしている制服、そして眼鏡が印象的な男子ーー柳生比呂士だった。
「なんだ、柳生じゃねぇか」
「おや、丸井くんでしたか」
お互いを視界に入れた途端、同じ部活仲間がそこにいたと分かり二人からはそんな声が漏れていた。
相変わらず風紀委員の腕章をしているところを見ると、風紀委員の仕事の最中だろうか?
名前はそんな事を思いながら柳生と丸井を見つめていると、ふと柳生と視線が絡み、なにも悪いことをしていないというのにぎくりと体を跳ねさせた。
そんな名前の反応に気づいてか、薄く苦笑を零しつつも柳生はそっと口を開いた。
「苗字さん、貴方もご一緒でしたか」
「うん。今から部活だからね」
言いながら進行方向にある調理室のドアを指させば、その指先を追った柳生は、あぁ、と合点がいったように声を漏らした。
しかし、どこか腑に落ちないところがあるのか少しだけ眉を寄せると名前から丸井へと視線をうつした。
「彼女が部活に行くことは分かりましたが…何故丸井くんも一緒に調理室へ行こうとしているのですか?」
顎に手をあて、思考を巡らせているのだろう、少しだけ難しい表情を零しながら丸井にそう問うてきた。
その質問に、丸井は名前のように体を跳ねさせるわけでもなく、至って普通に…いつものようにフーセンガムを膨らませた。相変わらず真ん丸で綺麗な形だ。
「そりゃ名前の帰り待ってるからに決まってんだろい。彼氏なんだから」
「ちょっ…丸井くん!」
さらりと言われた彼女という発言に、名前は慌てて丸井の脇腹を小突いてみたが、あまり意味はなかった。