第7章 赤色ドロップ
彼女に向かって調理部に入る宣言をした時も思ったが、見た目とは裏腹に案外絡みやすい人間なのかもしれない。
身長が高くすらりとした体躯、少しだけつり上がった目、一直線に結ばれた口元、組まれた腕。
こうしてまじまじと見てみると、すこし話しかけずらいオーラのようなものが出ている気がする。もしクラスメイトだったとしたら少しだけ声を掛ける事を躊躇ってしまうかもしれない。
そんな事を考えていた名前の鼻先に、生徒会長の指先がびしりと突き立てられ、思わずギョッと目を丸くする。
「良いんですの?!ここは学び舎ですの!それなのに白昼堂々と手を握るなんて破廉恥な…!」
「今夕方だけど」
「やかましいですの!細かいことはいいんですの!いいですか?丸井ブン太さん、苗字名前さん…貴方方は…」
「えっ…?!」
不意にあがった名前の大きな驚きの声に、丸井と生徒会長の視線が彼女へと注がれた。
自分へと向いてきた二人の視線に、少しだけ気まずそうな表情を零した名前だったが、生徒会長の訝しげな表情に慌てて口を開いた。
「えっと!生徒会長、私のフルネーム知ってたんだな…って驚いて…」
「あぁ…そんな事ですの。私、一度拝見した生徒の顔とフルネームは調べてしっかり頭に叩き込んでありますの」
「へぇ…!凄い…!私は人の名前を覚えるのが苦手なので尊敬しますっコツとかあるんですか?」
満面の笑みを浮かべ、生徒会長に詰め寄った名前。
名前は頭がいいが、それは勉学のみに対して有効なことが多い。対人間だと名前や顔を覚えるのが少し苦手だったりする。
一度顔を見れば忘れることはあまりないが、極希に名前を忘れてしまう事がある。あまりない事だが。
それでも、勉学に対しては一度頭で理解したり黙読したりなどすればきっちり頭に入るのだ。つまり、名前はあまり初対面の人間に興味がないのかもしれない。
そんな名前の目の前にいる彼女は、人の名前と顔を覚えるのが得意だという。それは名前にとってとても素敵で素晴らしい事だ。
目を輝かせながら、生徒会長の手を握る名前。突然の事に目を丸くしながらも何故か頬を赤くした生徒会長はされるがままになっている。