第7章 赤色ドロップ
真っ赤な顔をして見つめ合う二人を、窓から差し込む夕日がオレンジ色に染めていく。どのくらいそうしていたのかわからない。
ただ、どちらかがほんの少し身を揺らしたその時ーー
「不純異性交遊は取り締まり対象ですのーーー!」
やけに可愛らしく甲高い声が、二人の耳をつんざいた。
静かだった廊下は、二人だけの世界のようだったのに。そんな二人を引き裂くかのように突然聞こえてきた第三者の声に、丸井と名前は大きく体を跳ねさせ慌てて手を離した。
驚きで早鐘をうつ心臓を抑えながら、二人は僅かに距離をとり先程の声の主を探す為きょろきょろと辺りを見回した。声の主は、あっさりと見つかった。
少し離れた廊下の先で、腕組みをし丸井と名前を険しい表情で見つめる少女。綺麗な金髪を縦ロールのツインテールにした美少女ーー生徒会長だ。
名前は思わず、あ、と小さく声をあげた。彼女と会うのは三度目だからか、顔見知りのように感じているのかもしれない。
調理室、金曜日の朝、そして今現在。
こう何度も顔を合わせると親近感のようなものがわいてしまうのか、名前は相手が険しい表情をあらわしているというのに、へらりと間抜けな笑みを浮かべて見せた。
「生徒会長さん、こんにちは」
「こんにちは。あら貴方こないだの調理部の方ですのね、ご機嫌いかが?…って!そうじゃないんですの!挨拶なんて今どうでもいいんですの!」
名前の間抜けな笑いにつられ、同じように間抜けな笑みを浮かべ優雅に片手をあげ挨拶を交わしてきた生徒会長だったが、ふと我に返ったように地団駄を踏み始めた。
その突然の奇行に眉を寄せ引いてしまった名前と丸井であったが、そんな二人の視線に気づいたのか、生徒会長は身なりを整えたあと咳払いをひとつ落とすと二人の元まで歩を進めた。
相変わらず少し引き気味の顔をしている丸井と名前に、生徒会長は冷や汗を流しつつも腕組みをし、二人を威圧するように大きく口を開いた。
「貴方方!ここを何処だとお思いですの!?」
「何処って…どう見たって廊下だろい」
「ちがっ…そういう意味ではないんですの!」
「せ、生徒会長…落ち着いてください…」
また地団駄を踏み始める生徒会長を慌てて宥める名前。なんだか面白い人だな、なんてひっそりと思った。