第7章 赤色ドロップ
不意に差し出された丸井の手に、訳が分からず目を丸くさせていた名前。しぱしぱと目を瞬かせ丸井へと視線をやれば、ほんのり頬を上気し、大きく口を開いた。
「手、貸せつってんだろい。掴むなら腕じゃなくて、手がいーんだよ、俺は」
そうぶっきらぼうに言われた言葉の意味が一瞬理解出来ず、思考停止してしまったが、徐々に言葉が脳に染み込んできた途端ーー名前の頬はぶわりと真っ赤に染まった。
手を繋ぎたい。ほんの少しだけ回りくどい丸井のその言葉が、なんだか酷く照れくさくて恥ずかしくなってしまったのだ。
赤い顔を隠すように頬に手を置いた名前に、なんでお前が俺より赤くなんだよ…、と呆れた様子で呟いた丸井。そりゃそうだ。手を繋ぎたいと言って照れた自分よりも倍以上に照れているのだ、軽く笑ってしまう。
思わず吹き出して笑った丸井に名前はむくれた顔をしたが、早くしろい、と急かされ差し出された手をそっと見つめた。男らしい、ごつごつして、皮の厚い丸井の手。幸村の手と似ているようで、ちょっと違う…そんな、丸井の手。
丸井とは何度か手を繋いだ事があるが、どれも不意打ちだったし名前から繋いだことはなかった。そのせいか、名前の心臓は早鐘を打っていた。
ーーき、緊張する…!!
ただ、自分の手を、相手の手に重なるだけ。たったそれだけの事なのに名前は清水の舞台から飛び降りるような気分だった。ぎくしゃくとぎこちなく手を動かし、ひとつ深呼吸を落としてから、そっと丸井の手に自身の手を重ねた。
柔らかくて、ちょっとだけかたい丸井の手の熱が、手を重ねた事によってじんわりと名前の手に伝わってくる。きゅう、と心臓が心地よく高鳴った。
するりと丸井の指が動いて、指が交差して、きゅっと軽く握られた。恋人繋ぎだ。
丸井の指の腹が、名前の手の甲を優しく撫でるものだから、ぞくぞくとした感覚が体を巡り彼女は小さく声を上げてしまった。
その途端、固まり目を丸くする丸井。頬は真っ赤だ。そんな丸井の反応を見て、やってしまった!と名前は口を塞ぎおろおろと視線をさ迷わせる。名前の頬も、丸井同様真っ赤である。