第7章 赤色ドロップ
「丸井くん、部活終わるまで待っててくれる?」
「ん?おう!お安い御用だぜ!つーか、最初から待ってるつもりだったし。どこ行く?ゲーセン?うまいもん巡り?」
「じゃなくて、テスト勉強!するの!私がみっちり見てあげるから!」
目を細めそう言った名前の言葉に、丸井はあからさまに顔を顰めさせると、いつものように真ん丸で綺麗なフーセンガムを作りあげた。
「なーんで付き合った初日だってのに彼女に勉強見てもらわなきゃなんねーんだよ」
「つ、付き合った初日云々は関係ないでしょ!部活厳しいんでしょ?幸村くんに怒られ……っと、なんでも、ない」
「………」
うっかり口を滑らせて、自分で傷ついて。馬鹿みたいだ、と名前は自分のことながら思った。
ーー幸村くんのこと、忘れること出来るかな。
正確には"幸村のことを忘れる"ではなく"幸村への想いを忘れる"なのだが。
流石に今日の今日で幸村の想いを断ち切る事なんて無理な話なのだが、なら一月二月経てば解決するか?と聞かれれば名前は首を捻り考えあぐねるだろう。
要は、幸村への想いと別れを告げた今現在、これから先丸井とどのように過ごしていくかで幸村への想いは変わっていくだろう。それは、いい方にも、悪い方にも。
ーー今は、丸井くんを見てなきゃね。
名前はちらりと丸井を見た。綺麗な真ん丸フーセンガムを一度割り、また綺麗な真ん丸フーセンガムを作った丸井は、ポケットに手を突っ込み、さり気なく名前の歩幅に合わせ肩を並べ歩いている。
夕日に照らされた丸井の赤い髪は、少しだけ透き通って見えて不思議な感覚に陥った。そこに居るはずなのに、どこかへ行ってしまいそうな、不思議な感覚。
思わず手を伸ばしてーー気づけば、丸井の腕を掴んでいた。
「うおっ……な、なんだよ、名前。びっくりするだろい」
「あ、ご、ごめん…なんか手が勝手に…」
「はぁ?なんだそりゃ。変な奴」
「あはは、本当にねー」
首を傾げ訝しげな表情をこぼす丸井の言葉に、自分のことながらこくこくと頷いてしまう。
そんな名前をじっと見つめたあと、丸井はそっと手を彼女へと差し出した。