第6章 緑色ドロップ
「そうだよ、名前。こいつの言う通り。一度お試しで付き合ってみたら?考え方とか、色々変わるかもよ」
そう言って笑った朋子は、残り少なかった弁当の中身を勢いよく口の中へと放り込んでいく。中庭に植えられた背の高い時計をちらりと見れば、昼休み終了まであと5分をきっていた。
視線を丸井へと戻そうとして、不意に手を握られた。
どくん、と心臓が跳ねる。
あったかくて、皮が厚くて、ごつごつしたその手の感触にーー名前は少しずつ慣れてきてしまっていた。それは、もう何度も丸井の手に触れているからという訳で。
優しく、そっと握られた自身の手。それを包む丸井の手を、じっと見つめたあとーー名前はそっと丸井へと視線を戻した。
「丸井くん、私ね……幸村くんが好きなの」
「えっ…ゆ、幸村くん!?」
「おいまじかよ!」
ぽつりと呟かれた名前の言葉に、丸井と桑原は声をひっくり返し間抜けな表情を零した。
それもそうだろう。まさか、自身が所属している部長の名前が急に出てくるとは誰も思わない。勿論、詳細を知っている朋子を覗いての話だが。
丸井と桑原は目をしぱしぱと瞬かせたあと、互いの顔を見合わせた。が、丸井は大きく頭を左右に振り、で?、と名前の言葉の続きを促した。
「…でも、私今さっき失恋したの。幸村くんは、どう思ってるか分からないけど」
「お、おう…」
「けど、私は…まだ幸村くんの事が、好き、で…。……そんな奴と、丸井くんは付き合ってくれるの?」
苦笑気味にそう言った名前に、しんと静まり返った。
ーーうわ、やっちゃった…。
折角さっきまで楽しい雰囲気だったというのに、自分の発言のせいで台無しにしてしまった。
名前が顔を手で覆い、失言を悔いた頃、不意に丸井が口を開いた。
「……名前」
「えっ…」
驚いた。初めて丸井に、名前を呼ばれたのだ。
名前は目を丸くし、丸井を見つめれば、包まれていた手にぎゅっと力がこめられた。
とくん、と心臓が心地よく跳ね上がった。
真剣に自分を見つめてくる丸井に、自然と頬が熱くなり自分でも訳が分からなくなった。傷心気味で、感受性が上手くコントロール出来ないのだろうか?