第6章 緑色ドロップ
相手の瞳を見つめながら、そんな事をぼんやりと思っていた名前の耳に、名前、とまた丸井が彼女の名前を呼ぶ声が滑り込んでくるものだから。
思わず言葉を詰まらせつつも、丸井の言葉を待っていると、意を決したように彼は口を開いた。
「名前、俺さっきお前の泣いてる顔見たくねぇって言ったの覚えてるか?」
「…うん、覚えてるよ」
「じゃあ、それを踏まえてもう一回言うからちゃんと聞いてくれ」
「う、うん。わかった」
すぅ、と大きく息を吸い込んだあと、そっと小さく吐き出した丸井は、もう一度名前を瞳の中に閉じ込めてから、ゆっくりと口を開いた。
「俺はお前のこと絶対泣かせない。ずっと、俺と一緒に笑っててほしい」
「…丸井くん」
「名前。…俺と、付き合ってください。嫌になったら、素直にそう言ってくれて構わねぇ。けど、俺絶対お前をずっと笑わせるから…お願い、します」
天才的?が口癖な丸井。普段の彼は自身に満ち溢れていて、かっこいいと思っていた。しかし、そんな丸井が、不安そうに瞳を揺らしながら自分の手を握って交際を申し込んでいる。
ぎゅう、と心臓が心地よく疼き、うねった。
ーー私なんかが…。
一瞬、頭の中をそんな言葉が過ぎったが、目の前でこんなにも真剣に言葉を紡いでくれた丸井に、名前の心はぐらぐらと揺れーー
「私なんかで良ければ、お願いします」
気づいたら、そう呟いていた。
朋子と桑原の興奮したような声が、丸井と名前の耳をつんざいたが、そんな事など気にもならないのか二人は暫くじっと見つめあっていた。
それを中断させるかのように、昼休み終了のチャイムが鳴り四人は慌てて中庭から校舎内へと駆け出した。
そんな名前と丸井を、幸村精市が渡り廊下から悲しげな瞳で見つめていたのは、誰も知らない。