第6章 緑色ドロップ
「あーら、なんの事?て言うか、あんたに関係ないでしょ。さっ名前!あの男に今から連絡しないとね」
そう言った朋子は名前の口を塞いだまま、引き摺るようにして歩きだそうとした。…が、名前の手を掴んだままだった丸井の手が少しだけ強く彼女の手を自分の方へと引いた。
くん、と引っ張られるような感覚と、前へ進めない感覚に、朋子は獲物がかかったとばかりに笑みを深くした。が、勿論その笑みは名前にも丸井にも見せていない。
進行方向へと向いていた朋子の視線が、丸井へと移される。が、その丸井の視線は朋子にではなく名前へと向いていた。
その時、すっと朋子の手が口から離れた。
「な、なぁ…合コンしたのか?お前」
「いや、それは…」
ーー朋子が勝手に言ってるだけ…。
そう、言葉を紡ごうとした名前より先に、焦ったような表情を浮かべた丸井が、大きく口を開いた。
「彼氏が欲しいならっ、俺でいいじゃねぇか!」
「え、えぇ…?!ま、丸井くん何言ってるの?!」
焦ったような表情から、真剣なものへと変えた丸井は名前の目を真っ直ぐと見据えてそう言い放った。
その言われた言葉に、名前は顔を真っ赤に染め上げわたわたと慌ててしまう。まさか、丸井にそんな事を言われるとは思わなかった。
名前はどう答えていいか分からぬまま、真剣な目をこちらに向けてくる丸井の視線からそっと逃れた。
「いや、違うな」
と、その時。丸井の口が言葉の続きをつむぎ出した。
名前と朋子、そして褐色肌の男子。三人の視線が一斉に自身へと向けられたが、それでも丸井は気にせず、真剣な色を瞳に宿したまま言葉を紡いでいく。
「俺でいい、じゃねぇ。……俺が、苗字の、彼氏になりてぇんだ。………俺じゃ駄目か?」
ほんのり頬を上気させた丸井の、縋るような視線が向けられた。まるで子犬のようだった。
その視線に胸が心地よく締め付けられ、名前はぐっと言葉を詰まらせた。
"俺じゃ駄目か?"
ーーそんな事、言われても…。
名前は目の前にいる丸井ブン太を瞳に閉じ込めたまま、幸村精市という男を重ねた。