第6章 緑色ドロップ
言葉の代わりに出てくるのは、なんの意味もなさない悲しく間抜けな涙ばかり。名前はつくづく自分が嫌いになった。
大好きな人には感情のままに傷つける事を言うし、想いを断ち切れていないのに大好きだったと過去形で言うし、なにより…一番名前が悔やんだのは朋子と幸村の関係だった。
暫く話しかけないで、と朋子は幸村にいった。
それはつまりしばらくの間距離を置くということで。幼馴染であり仲のいい二人が、自分なんかのせいでその仲の良さに亀裂を入れてしまった。
「ごめ、んっ…ごめん…朋子っ…」
「なんで名前が謝んの。謝るのはあいつの方…って、あいつ謝ってないな、うわ腹立つ」
泣きじゃくる名前に、朋子は普段と変わらぬ様子で言葉を返したが、やはりまだ腹立たしいのか歩を進める足が一段階早くなった。
そのペースについていくのが少しだけ辛くなり、伏せていた顔を少しだけ上げたところでーーふと、見覚えのある赤色が視界に入り込んできた。
名前達が向こう進行方向の先に、いつものようにフーセンガムを膨らせた丸井ブン太が、褐色肌で坊主頭の男子と親しげに話しているのだ。
開けられた廊下の窓の枠に、片肘をつき、うんうんと褐色肌の男子の話を笑いながら聞いている。
ーー丸井くん…。
急に、彼に縋り付きたくなった。
丸井ブン太という男の優しさは、名前の見に染み込んでしまっていて、その優しさを求め今にでも彼へと駆け寄りたかった。そんな、浅ましい自分に、反吐が出そうだった。
ーーまるで、丸井くんを慰める道具みたいに。
名前は下唇を強く噛み、俯いた。
朋子に引き摺られないように、必死で足を動かしながら廊下を歩く。丸井とすれ違うまで、残りあと僅か。
どうか、バレませんように。そう願いながら名前は、忙しなく動く自身の足を視界に入れながら廊下を歩く。
丸井との距離まで、あと10歩。
丸井との距離まで、あと5歩。
丸井との距離まで、あと1歩。
そして、交差する丸井と名前。まるでスローモーションのようだった。
良かった、バレなかった。そう安堵した名前の手を、丸井ブン太の手がしっかりと掴まえた。