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【R18】ドロップス【幸村精市】

第6章 緑色ドロップ



 言葉の代わりに出てくるのは、なんの意味もなさない悲しく間抜けな涙ばかり。名前はつくづく自分が嫌いになった。
 大好きな人には感情のままに傷つける事を言うし、想いを断ち切れていないのに大好きだったと過去形で言うし、なにより…一番名前が悔やんだのは朋子と幸村の関係だった。
 暫く話しかけないで、と朋子は幸村にいった。
 それはつまりしばらくの間距離を置くということで。幼馴染であり仲のいい二人が、自分なんかのせいでその仲の良さに亀裂を入れてしまった。

「ごめ、んっ…ごめん…朋子っ…」
「なんで名前が謝んの。謝るのはあいつの方…って、あいつ謝ってないな、うわ腹立つ」

 泣きじゃくる名前に、朋子は普段と変わらぬ様子で言葉を返したが、やはりまだ腹立たしいのか歩を進める足が一段階早くなった。
 そのペースについていくのが少しだけ辛くなり、伏せていた顔を少しだけ上げたところでーーふと、見覚えのある赤色が視界に入り込んできた。
 名前達が向こう進行方向の先に、いつものようにフーセンガムを膨らせた丸井ブン太が、褐色肌で坊主頭の男子と親しげに話しているのだ。
 開けられた廊下の窓の枠に、片肘をつき、うんうんと褐色肌の男子の話を笑いながら聞いている。

 ーー丸井くん…。

 急に、彼に縋り付きたくなった。
 丸井ブン太という男の優しさは、名前の見に染み込んでしまっていて、その優しさを求め今にでも彼へと駆け寄りたかった。そんな、浅ましい自分に、反吐が出そうだった。

 ーーまるで、丸井くんを慰める道具みたいに。

 名前は下唇を強く噛み、俯いた。
 朋子に引き摺られないように、必死で足を動かしながら廊下を歩く。丸井とすれ違うまで、残りあと僅か。
 どうか、バレませんように。そう願いながら名前は、忙しなく動く自身の足を視界に入れながら廊下を歩く。

 丸井との距離まで、あと10歩。
 丸井との距離まで、あと5歩。
 丸井との距離まで、あと1歩。

 そして、交差する丸井と名前。まるでスローモーションのようだった。
 良かった、バレなかった。そう安堵した名前の手を、丸井ブン太の手がしっかりと掴まえた。

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