第6章 緑色ドロップ
どん、と。幸村の胸倉を強く押し手を離せば、朋子と幸村には半歩ほどの距離感がうまれた。
言葉のナイフを大量に浴びた幸村は、目を見開き、唇を戦慄かせながら虚空を見つめていた。
そんな幸村を数秒見つめ、朋子は深い深い溜め息を吐いた。目を閉じ、眉間に指を置いて、数度揉んだ後ゆっくりとそこから手を離した。
相変わらず黙り込んでいる幸村を、朋子の据わった目が捉える。
「……悲しいよ、幸村。…がっかりだよ、幸村。」
言葉を丁寧に紡いでいく。言葉のひとつひとつを、相手にゆっくりと飲み込ませ、味合わせるように。
「最低だよ、幸村」
ざぁ、と一際強い春風が吹き抜けた。
風によりばたばたと暴れるスカートを軽く抑えたあと、朋子は幸村から視線を外し、座り込んでしまっている名前を強引に立たせた。
落ちていた名前のスマートフォンと、自身の鞄を拾い上げた朋子は大股でドアまで歩みより、そこでふと足を止めた。朋子の視線が、未だ立ち竦んでいる幸村に向けられる。
「…暫く私達に声掛けないでくれる?あ、宮野と付き合いました、とかクソみたいな報告とかも要らないからね」
冷たさの抜けたその声は、少しだけ震えていた。
反射的に朋子へと視線をやれば、じんわりと涙を浮かべている。無理もない。自分でもきついと思える言葉を幼馴染にたくさん浴びせたのだ、心が痛いのだろう。
朋子は視線を前へと戻し、目元を強く擦ったあとドアを開け、居心地の悪い箱庭の世界から校舎の中へと足を踏み入れた。
名前がドアを閉めるさい、不意に視線が絡んだ幸村は、泣いていた。
「クソが!アホが!馬鹿野郎!あの脳内お花畑野郎!」
先程の涙は何処へ行ったのやら。朋子は周囲の目など気にすること無く罵詈雑言を口から幾つも作り上げ吐き捨てながら、大股で廊下を歩いていた。
彼女に手を引かれ、引っ張られるようにして歩いている名前は、いつもならばそれをたしなめたであろうがーー今の名前にはそんな元気微塵もなかった。
頭がパニックを起こしていたのだ。
幸村に大好きでしたと言ったことや、暴言、それに自分のせいで起きた朋子の関係の悪化。完全にキャパオーバーだ。