第6章 緑色ドロップ
三人のあいだを形のないものがすり抜け、衣服や髪を揺らす中、そんな事にも動じず三人はただじっと立っていた。
幸村を睨みつける朋子と、その視線と言葉を受け困惑気味の幸村、そして…どうしていいか分からず狼狽える名前。
しかし、名前は朋子の言葉と存在により、ほんの少しだけ心が軽くなった気がした。
自分の心が狭いのだと、自分の性格が悪いのだと言い聞かせ潰れそうになっていた名前には、朋子の怒りの言葉が自分の気持ちを代弁してくれているように感じたからだ。
「朋子…もういいよ。私幸村くんに嫌な事たくさん言っちゃったから、もう止めて」
「良くない。良くないよ、名前。友達傷つけられていいわけないじゃない」
「朋子…」
名前の言葉に今度はきちんと答えつつも、視線は未だ真っ直ぐ幸村へと向けられたままだ。
名前は困惑の表情を浮かべた。どうすればいいか分からなかったのだ。朋子の気持ちは嬉しいが、先程自分で散々幸村を傷つける言葉を吐いてしまったのだ、これ以上は流石に可哀想だと情けの心が疼いている。
しかし、朋子の腕を引いても、声を掛けても彼女はどうじない。凛と背筋を伸ばしただ真っ直ぐに幸村を見つめている。
「幸村。いい事教えてあげるよ。女の子はね、好きって言葉吐いて、たまに甘くするだけじゃ駄目なんだよ。愛を囁きながらきちんと行動も起こさなきゃ」
「………」
「はっきり言って、今のあんたは凄く馬鹿。大馬鹿野郎の糞野郎だよ。好きだって言ってキスして、たまに甘やかせば女はそのままころっと自分に靡くと思ってんの?」
「そんな事思ってるわけないだろ!」
「だったら!なんでちゃんとやらないわけ?!なんでデート中にスマホいじって他の女からの連絡見るの?なんでデート中にたいした用事じゃないつったのに電話出るの?なんで話を聞いてって言ったのにそれを押しきってまで電話を出たの?なんでデート中に他の女のとこいくの?待っててって言われて大人しく待ってて、やっぱり無理でしたって言われた名前の気持ち考えたことあんの?!馬鹿野郎!」
聞いたこともないような大声で、朋子は幸村を鋭く睨みつけ叫び、最終的には胸倉を掴んでいた。