第6章 緑色ドロップ
朋子にしては珍しく低い声だった。
幸村は潜めていた眉を更に深くし、ゆっくりとした足取りでこちらへと向かってくる朋子を見つめた。
言葉を急かすことはせず、向こうが話し出すのを待っているようだ。
そんな幸村の心情が手に取るように分かるのか、朋子は顔にかかる綺麗な栗色の髪の毛を些か乱暴に手で流した後、ゆっくりと口を開いた。
「幸村ァ…あんた、名前とデートするって言ってたとき、喜んでたわよね?」
「え?あ、あぁ……そりゃ嬉しかったからね」
なんでそんな質問をするんだろう。そんな言葉が幸村の顔にはり付いていた。
しかしそれは名前も同様で、いったい何を言い出すんだと眉を潜めながら友の名を呼ぶが、その声に朋子が反応することは無く、ただ言葉の続きを淡々と話し始めた。
「なら、なんであんたデートすっぽかして宮野のとこ行ったわけ?」
「すっぽかしてなんかない。ちゃんと戻るつもりだったさ」
落ち着いた幸村の言葉が、朋子を見据えたまま紡がれる。何故その事を知っているんだ、とかは思わないらしい。自分が話していない自分の事を朋子が知っている。なんら疑問に思わないらしい。
幼馴染だからだろう。
「戻るつもりだった割りには、お金払ってったらしいじゃない」
「それは…万が一戻れなかった場合、」
「ほら、ボロが出た。あんたは戻る"つもり"でしかなかったから、金置いて名前放ったらかしてあいつん所行って、デートなしにしたんでしょ?聞いて呆れるわ。金曜日の時点で思ってたけど、あんた宮野に対して距離感がおかしいよ」
「別に普通だろう?友達が心配なら駆け付ける。お前もそうだろう?」
「ならなんで連絡取れなかった名前に駆け付けなかったのよ」
「それは…」
間髪入れずにぴしゃりと言い放った朋子の言葉に、幸村は言葉を詰まらせた。
「ほら、言いなさいよ、なんで?あいつの所には心配だから駆けつけたのに、連絡取れなかった名前の所には駆けつけない、心配じゃなかったんだ?」
「そんな事ない!ただ、用事とか…充電切れかと思って」
「…あっそ。まぁいいわ」
朋子が幸村を小馬鹿にするように鼻で笑った瞬間、春風が吹き抜けた。