第3章 白色ドロップ
振り向いてみれば、幸村精市がそこに居た。
朝ーー初めて出会った時と同じように柔らかく笑みを浮かべながら自分を見てくる幸村に、名前は首を傾げつつ、どうしたの?、と問えば先程の授業の事について話し始めた。
頭がいいんだね。凄いよ。今度俺にも教えてほしいな。
そんな言葉を、微笑みながら述べたあと、幸村は曖昧に笑う名前に緩く手を振り教室をでていった。
去っていく後ろ姿は凛としていて、ただ歩いているだけなのにとても絵になった。
お昼を食べるのなら屋上がうってつけだよ、と愛卯朋子は天使のような笑みを浮かべそう言った。
二人で教室を抜け出て、屋上へと繋がる階段を登りきったところでふと違和感を感じた。
屋上のドアに、南京錠がぶら下がっていたのだ。金色の重たそうなそれは、侵入者を防ぐ為どっしりとドアにぶら下がったままこちらを見つめている。
これでは入れないのでは?と、眉を寄せ朋子へと視線をやればーー可愛らしく綺麗な声で鼻歌を奏でながら制服のポケットから小さな鍵を取り出した。
「あ、鍵持ってたんだ」
ほっとしたような気持ちになり、思わず頬を緩ませながらそう言えば、うん!複製して作ったの!、なんてとんでもない言葉が返ってきて思わず名前はずっこけそうになってしまった。
「つ、作った?!いいの?!そんな事して!」
「え?そりゃダメでしょ?」
「いやそんな当たり前じゃんみたいな顔されても!」
「よし、空いた。行こー」
ガチャ、と些か重たい音を立てたかと思えば彼女の繊細な手の上に乗った南京錠。
朋子はそれを手早くポケットにいれ、ドアノブに手を掛けようとしたその時ーー
「こら、愛卯。また勝手に鍵を開けたね?」
耳触りのいい、柔らかな声が後からぶつかってきた。
その言葉は、自分にぶつけられたものではないのだが、なにか自分自身も悪い事をしているような気分に陥っていた名前は、ビクリと体を揺らしたあと石のように硬直させた。
しかし、名前を呼ばれた本人である朋子は、悪びれた素振りも見せず顔だけ後方へと向けるとへらりと笑みを零した。