第3章 白色ドロップ
お昼はお弁当を持ってきた。母お手製のお弁当には、確か自分の好きなものをふんだんに入れておいた、と母が言っていた気がする…と名前は横に掛けておいた鞄に手を伸ばした。
「苗字さん」
不意に鈴を転がしたような声が、自分を事を呼ぶものだから…名前は反射的に鞄に伸ばしていた手を止め顔を上げた。
視線の先にいたのは、名前の机に両手をつきニコニコと彼女に笑みを向けてくる美少女だった。髪色は柔らかい栗色で、腰ほどまである。
ふんわり笑ったその様は、まるで天使なのではないかと思うほど可愛くて見惚れてしまう。
体躯はスラリとしていて、出る所は出て、引っ込むところは引っ込むーーなんとも羨ましいスタイルだ。
ーー美少女って、まさしくこの子のことだ。
神様とは、本当に不公平だ。
幸村精市といい、この美少女といい…同じ人間なのにこうも見目が違うなんて、と思わず卑屈になりかけたが、そこで考えることをやめ心の中で自分の笑い飛ばした。
馬鹿野郎。人は一人一人違うから皆いいんだ、と笑ったのだ。
「はい、なんでしょう?」
へらっとアホっぽい笑みを零しながらそう声を出せば、彼女は至極嬉しそうに笑みを深くした。天使が笑ったらこんな感じなのだろうか?と名前はぽつりと思った。
「あのね、私貴方と友達になりたくて…。あ、自己紹介してないね?私は愛卯朋子、宜しくね」
そう言って手を差し出してきた彼女ーー愛卯朋子。
白くてキメの細かい手はとても華奢で、まるでお人形の手のようだ。
雪のように白くて綺麗なその手に、思わず見惚れていたが、慌ててその手に自分の手を重ね軽い握手を交わしたあと、すぐにはなした。
繊細な見た目通り、とても柔らかな手だった。
自分のガサガサな手と比べたら月とスッポンだ、なんて思いつつも転入初日に出来た友人に名前の心は舞い上がっていた。
にこにこと微笑んでくる朋子に、名前も同じように笑い返しているとーーふと、優しげな声が傍らから聞こえてきた。
優しげな声の誰かが、名前を呼ぶ声だ。