第6章 緑色ドロップ
「…丸井とデートする為に、学校をサボったのかい?」
そう言った鋭い声に、名前は緩く顔を左右に振ったが、声を出すことが出来なかった。言葉が喉の奥に引っかかってしまったのだ。
それでも名前なりに、無反応のままよりはマシだと思ったのだが、幸村はそう思わなかったらしく小さく舌打ちが聞こえたかと思えば視界の端にプリクラが揺れ動いたのが見えた。
幸村の手から離れ、重力に従って二人の足元へと落ちようとするそれに、名前は手を伸ばしたが、その手は幸村の手によって掴まってしまった。
「んぅ…!」
瞬きひとつ。その瞬間、名前は気づいたら幸村にキスをされていた。久しぶりに感じた幸村の唇。やはり柔らかくて、気持ちが良くて、胸が心地よく高鳴った。
でも、嫌だと思った。名前の気持ちを無理矢理押さえつけるようなキスから、逃れたかったか。
身じろぎをするも体はびくともせず、気づけば幸村の舌が口内に侵入していた。腰と腕に触れていた幸村の手は、いつの間にか名前の両耳を塞いでいて、幸村の舌が彼女の舌を遊ぶたびに水音が脳に響き酷く卑猥だった。
熱い幸村の舌が、嫌だと逃げる名前の舌を簡単に捉え些か乱暴に舌で撫でつけるものだから、彼女の思考は徐々に蕩けてきていた。
「ん、んぅ…んんっ」
それでも嫌だと、やめろと、両耳を塞いでいる幸村の手を引き剥がそうと試みたが縋るように名前の手が添えられただけで意味はなかった。
ーーも、無理っ…誰か…。
助けて。
そう、心の中で呟いた瞬間、大きな音が二人の鼓膜を刺激し、震わせた。屋上のドアを、勢いよく開けた音だ。
唇が離れ、反射的に二人の視線がそちらへと向かう。
視線の先にいたのは、朋子だった。今来たのだろう、スクール鞄を肩に掛けたまま、こちらをーーいや、幸村を睨みつけている。
「愛卯…?なに怒って、」
自身に向けられた視線に幸村は眉を潜めつつも、彼女へと言葉を投げ掛けたが、それを遮ったのは他ならぬ彼女だった。
「幸村ァ……聞きたいことが幾つかある。簡潔に答えて」
軽く錆びてしまっている重たいドアを幾分乱暴にしめた朋子が、スクール鞄を床に投げ落としながらそう呟いた。