第6章 緑色ドロップ
ーー丸井くんとのプリクラ…!
名前は慌ててそれへと手を伸ばそうとしたが、先に伸ばしていた幸村の手により四角いなにかを掴むことは出来なかった。
屈めていた身をゆっくりと起こしながら、幸村はただ黙って丸井と名前のプリクラをじっと見つめた。
穴があくのではないか?と言うほどそれをじっと見つめる幸村に、名前は言いようのない恐怖を覚えた。
自然と、こくりと喉が鳴り、逃げるように足を一歩後退させれば、幸村の視線がゆっくりと名前へと向けられた。
「ひっ…」
その視線の冷たさに、勝手に喉の奥から搾り取られたような小さな悲鳴が上がった。
先程まで揺れ動いていた幸村の瞳が、ほの暗い色一色に染まっているのがよく分かった。その瞳に射抜かれ、感じる恐怖。名前はなぜ幸村がこんなにも恐ろしい目をするのか分からなかった。
分からなかったが、なにか不味いことが起きた、という事は痛い程分かった。ビリビリと肌と脳を刺激するような恐怖が襲ってきて、今すぐ逃げ出したかった。
しかし、目の前にいる幸村は、それを見越したかのように名前の腰に腕を回し自分の方へと強く引き寄せた。
下半身同士がぴったりと密着し羞恥心から顔を赤くする名前に、いつもの幸村ならば、可愛いね、なんて言って笑っていただろう。
しかし、今現在目の前にいる幸村は違う。
ただ黙って、ほの暗い瞳の中に、怯えきった名前を閉じ込めているだけで口を開こうとしない。
「ゆ、ゆき、むらく…」
上擦った情けない声ながらも、なんとか相手の名前を呼べば、そこでやっと幸村の口がゆっくりと開いた。
「名前…いつの間に丸井とこんなに仲良くなったんだい?先週の木曜日に会ったのが初めてだろう?」
「そう、だけど…」
「しかも、ここに書いてある日付け…先週の金曜日だよね。どういうことだい?お前は、先週の金曜日家の用事で休んだんじゃないの?」
「それは…」
ーー適当に担任に言っておいてと朋子に伝えたから。
とは、言えなかった。
気づけば額同士がくっついており、至近距離で幸村の瞳が名前を射抜いていて、息苦しさを感じた。