第6章 緑色ドロップ
「なんでそんな事言うんだ!俺が好きなのはっ…名前だよ。お前にきちんとそう言ったじゃないかっ!なんで信じてくれないんだい?」
「……っあはは、信じてほしいなら、もう少し態度で示して欲しかったな。…私が気持ちに気付いた後も、きちんと」
「えっ……名前…それって、」
幸村の言葉は、名前の手が相手の口を覆ったことによって紡がれることはなかった。
怒りの色に濡れた瞳に、戸惑いの色を差した幸村の瞳が自身を視界に捉えた時、名前はゆっくりと口を開いた。
「幸村くんはね、きっと勘違いしたんだよ」
「……」
幸村の眉間にシワが寄る。瞳が言葉の続きを促した。
「自分の悪口言ってる相手を、私が怒ったから嬉しかったんだよ、きっと。それを好きだと勘違いしたんじゃないかな?悲しかった感情から、嬉しいっていう感情に変わって勘違いしたんだ、きっとそう」
そう言葉を丁寧に吐き出した後、そっと、幸村の口から手を離した。
「幸村くん」
気づいたら、
「大好きでした」
涙が勝手に出ていた。
大粒の涙がひっきりなしに出たが、拭うことはせずそのままにしておいた。名前は緩い笑みをひとつこぼし、幸村の手を離させようとしたが、それでも彼の手は離れなかった。
「名前っ…俺っ…。お願いだから、話を聞いて」
「っ…!聞きたくないってば!もう嫌なの!離してよ!」
「名前っ…!」
腕を離してほしい名前と、話を聞いてほしい幸村。
二人は自分の意思を尊重させようと藻掻き、結果男の幸村に力がかなうはずもなく名前の両腕は幸村の腕に拘束されてしまった。
その瞬間、がしゃん、となにかが落ちた音がした。
二人の視線が音のした方へと自然と流れる。音を立て落ちたなにかは、二人の足元のすぐ横にあった。
落ちたものは、幸村の弁当と名前のスマートフォンーーそれと、四角いなにか。
「…これって…」
幸村の意識が名前へと逸れ、四角いなにかへと注がれる。名前の腕から手が離れ、代わりにその四角いなにかへと伸ばされていく。
その瞬間、ふとその四角いなにかが何なのか、名前は気がついた。