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【R18】ドロップス【幸村精市】

第6章 緑色ドロップ



 逃れたはずなのに、幸村の腕にまた掴まって、距離を縮められてしまった。二三歩後退した分が、あっという間に帳消しになってしまい、すぐ近くに幸村の綺麗な顔がある。どくり、と心臓が疼き、うねった。
 
「嘘つきってどういう事?俺はちゃんとお前を見てるよ、なんで分からないんだい?」
「……分かったうえで言ってるの!逆に聞くけど、なんで今の状態でちゃんとみてるって言えるの?宮野さんの方ばっか見てたじゃない」
「それは…名前とはまた後で話せるしと思って…」
「思ってただけでしょ、それ。後で聞くから、って幸村くん言ってさ、その言葉信じて待ってても宮野さんと楽しそうに話してるし、私から行ってまた話そうとしてもまた宮野さん優先するし。…それでもちゃんと見てるって言えるの?言えるとしたらおめでたいよ、幸村くん」
「っ…それ、は…」

 自身を見上げ、至近距離で鋭く睨みつけてくる名前に、幸村は声を僅かに震わせた。忘れていた事をほじくり返され、気まずさに言葉を探しているようだった。
 
 ーーむかつく…むかつく…むかつくむかつくむかつく!

 泣きそうなぐらいに、腹立たしかった。
 自分が惨めになる言葉を、自分が悲しくなる言葉を、自分が苦しくなる言葉を、好きな相手に罵詈雑言と混ぜ合わせて好きな相手に言わなければならないこと事態が、腹立たしかった。
 奥歯を噛み締め、いつの間にか浮かんできた涙の粒を零さぬように鋭く相手を睨み続ければ、幸村は未だ言葉が見つからないのか瞳を揺らしている。
 そんな情けない幸村を見ても、名前は彼の事が大好きだと思った。幸村の事を傷つける自分が、嫌いだった。
 それでも、口は自分の本心とは裏腹に、借り物のように勝手に動いてしまう。

「わかったなら、早く離して。お昼の時間なくなる」
「っ…ま、待って、もう少し話そう。少し落ち着いてから話さないと…」
「っ…!いい加減にして!もう話すことなんてない!幸村くんはっ……幸村くん、が、好きなのは…宮野さんなんだよ…!」

 掴まれた腕を振りほどこうと、暴れながらそう吐き捨てるようにそう呟けば、幸村はそこで初めて戸惑いの表情から怒りの表情へと変えた。

 
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