第6章 緑色ドロップ
「もう…いい加減にしてよ!宮野宮野宮野…!もう聞きたくないよ!口に出さないで!!もうたくさん!!宮野さんと仲良くしたいなら幸村くん一人で勝手にやって!!私を仲間に入れようとしないで!!」
顎に添えられていた手を力いっぱい外させ、二三歩足を後退させながら、名前はヒステリックに叫び散らした。
目の前にいる幸村の表情が、驚きと戸惑いの表情の幸村が、酷く名前を苛立たせた。
「っ…!名前、落ち着いて、急にどうしっ…」
「急にじゃない…全然急にじゃないよ!ずっと…ずっと思ってたよ…ただ、口にしなかっただけ……幸村くんに、よく思われたいから言わなかっただけだよ」
「名前……、」
怒りの色を声を滲ませて、鋭く幸村を睨みつければ、相手はただこちらの名前を呼ぶだけだった。
ーーあーあ…言っちゃった。
終わりだ、と思った。いや、寧ろ始まっていたのかも定かではないが。
名前は自嘲気味な笑みを浮かべれば、勝手に口が動きはじめてしまった。
「幸村くん、覚えてる?」
「え、な、なにを…」
「ここで、私にさ…ずっと私の事見ていたと思ってるよ、って言ってくれた事」
「あ、あぁ…覚えてるけど…それがどうかしたのかい?」
「あぁ、良かった、覚えてくれてるんだ」
幸村の言葉に、名前はほんの少しだけ笑みを浮かべたあと、真っ直ぐに幸村を見据えた。
戸惑った表情を浮かべている幸村を、自分の瞳の中に閉じ込めながら、ゆっくりと口を開きーー
「嘘つき」
そう呟いた。
ーー忘れてくれていた方が、良かったのに。
幸村の視線が、自分を捉えていると感じたのはほんの少しの間だけだった。気づいたら、幸村の視線は宮野の方を向いていて。気づいたら、自分は幸村を見続けていて。だからこそ、二人の距離感は見ていて苦しいものだった。
呟いた名前の嘘つきという言葉。
その言葉の意味が、幸村には理解が出来なかったようで、戸惑いの色が色濃くなっている。
「じゃあ、私行くね」
もう居たくないと思った。この場からすぐにでも消えたいと思った。
だからこそ、そう言葉を吐き出したというのに、幸村はそれを許さなかった。