第6章 緑色ドロップ
土日を挟んで訪れた開放的だが狭い箱庭。体を撫でつけてくる春風や春空の綺麗さにいつもなら自然と頬を緩ませていたところだが、今はそんな余裕が微塵もなかった。
二羽の雀が手摺りで羽根を休め仲睦まじく体をすり合わせている。そんな様をぼんやりと眺めていたら、ねぇ、と低い声が耳に滑り込んできた。
いつもは耳触りのいい声だと思うのに、今はテレビの砂嵐のように不快だと思ってしまう。なのに、幸村の声が耳に滑り込んできた瞬間、とくん、と勝手に胸は弾むものだから名前は訳が分からなかった。
「…なに?」
自分の事なのに自分が分からず、名前はぼんやりと雀を眺めたまま言葉を零せば掴んでいた腕を強く引かれ、無理矢理二人の視線が絡んだ。
怒気とほの暗いなにかがいりまじった瞳に射抜かれ、名前は言葉を詰まらせ体を硬直させたが、小さく息を吐き真っ直ぐと相手を見据えた。
「…名前、どういうつもりだい?あんな言い方、普段のお前じゃしないだろう」
「あんな言い方って?どんな?」
「人を威嚇するような、棘のある言い方だよ。宮野、驚いていたじゃないか」
ーーだったらなんだって言うの。
そんな言葉を飲み込んでから、名前はゆっくりと口を開いた。
「ごめん、気付かなかった。次は気をつけるよ。…まぁ、次があるか分からないけど」
「宮野ともう話さないつもりなのかい?そんな言い方ないだろう、後できちんと宮野に謝るんだよ?」
「………嫌。なんで私だけが謝るの」
ーーまず謝るのは、幸村くんじゃないの?
そっと心の中で毒づきながら、視線を外せば、逃がさないとばかりに顎を掴まれ視線をまた無理矢理絡まされた。
「名前!お前本当に今日おかしいよ、いつもはそんなふうな言動しないじゃないか!俺も一緒に行ってあげるから、出来だろう?」
ぐちゃ
ぐちゃ ぐちゃ ぐちゃ
ぐちゃ
潰れたなにかは、潰され過ぎて最早液体のようになっていた。
淡く象っていたはずのそれは、目の前にいる幸村精市という男にぐちゃぐちゃに踏み潰され、液体となったそれはどろどろと流れ落ち、汚いなにかとなって名前を汚していく。