第3章 白色ドロップ
* * *
午前の授業が全て終わり、名前はようやく肩の力が抜けるのを感じた。
立海大付属中はどうやら青学よりも授業が少し進んでいて、まだ習ったことのない数式に少しだけ戸惑ったが解き方を一度教えてもらいそこからは名前の独壇場だった。
あまりにもスラスラと数式の答えを書いていくものだから、数学教師は興奮したように大学レベルの数式を黒板に書き始めた。
濃い緑色をしたその板に書かれた数式は、興奮気味で書いたせいか所々字がブレてしまっていたが名前にはなんら問題なかった。
長い数式を書いた教師は、これならどうだという顔をしたあと、簡単にその数式の解き方を口頭で述べた。それも早口で。
そんなやり方で問題が解けるわけないだろう。クラスメイトの誰しもがそう思った。勿論、幸村精市もだ。
しかし、名前はゆっくりと瞬きをひとつしたあと、黒板に綴られた数式を眺めたあと、白く細長いチョークを手に取り問題を解き始めるーーのではなく、いきなり解答を丁寧な文字で書き上げた。
コツコツと音をたて、チョークが黒板に擦られパラパラと粉になって落ちていく。しかし、そんな事など誰も気にしない。
教師とクラスメイトの視線は彼女が綴っていく文字に釘付けである。
「出来ました」
そう言ってチョークを元の場所に置き、教師をちらりと見やる。
先程の興奮はどこへいったのかーー教師は名前に視線を送られている事も気付かず、ただ呆然と黒板を見つめていた。
「えっと、合ってますか?」
自信はあるのだが、あまりにも教師がなにも言わないので、名前は焦れてそう問うてみた。
広い額から汗を滲ませ、頬にそれが垂れた瞬間、教師は目を見開き大きく口を開いた。
「素晴らしい!合ってる!合ってるよ!」
「そうですか、良かった!」
興奮したように両手を拳にし、話す教師に名前は嬉しそうに笑ったあと席へと戻った。
それが、先程までしていた授業の話。あれから名前は徹底的に教師に解答を求められ、すっかり疲れてきっていた。
机に突っ伏し深い溜息を吐けば、ぐぅ、と腹の虫が騒ぎ出した。