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【R18】ドロップス【幸村精市】

第6章 緑色ドロップ



 ーーもう、無理だ。

 敵わない、と名前は心の中で白旗を上げた。
 その証拠に、宮野の元へと行った幸村は三時限目が始まるぎりぎりまで楽しそうに彼女と話していて。三時限目が終わり、休み時間に入っても名前の元へはやって来なかった。

 ーー後で聞くって言ったのに。

 これで、何回目だろうか?彼の後で聞くは聞き飽きてしまった。
 酷く悲しい気持ちと、酷く寂しい気持ちと、酷く虚しい気持ちが混ざりあい、名前は静かに椅子から腰を上げ教室を出ていった。
 その事に気付く者は、誰も居なかった。



 名前は適当な理由をつけ、四時限目を保健室でサボった。
 自分から進んでサボる事なんて、産まれて初めてだった。
 サボり自体は丸井との一件がはじめてだが…自分から進んで、一人でサボるというのははじめてだ。だからと言って、特になにもなかった。むしろ、胸の不快感で本当に気分が悪く帰りたいくらいだった。

 ーー…一人でサボっても、つまんないな。

 ーー丸井くんが、一緒に居てくれれば楽しかったのに。

 そんな事をぼんやりと思いながら教室へと戻る途中で、ふと前方から幸村がやってくるのが見えた。その横に、当然のように宮野が肩を並べて歩いている。

        ぐちゃ

 潰れたなにかを、足で強く踏み潰されている感覚におちいった。
 二人楽しげに話しながら、片手にお弁当を持っている。昼食を取りに屋上まで行くのだろう。

 ーーあそこは、朋子と、幸村くんと、私の…場所なのに。

 幼稚で醜い嫉妬心が大きく顔を出した。
 名前は俯き、きつく下唇を噛んだ。気付かないふりをして、このまま通り過ぎたかった。そうすれば、見たくないものを見なくて済む。
 きゅ、きゅ、と小さく上履きの音を鳴らしながら、廊下をゆっくりと歩いていく。

 すれ違うまで、あと数センチと言った時ーー

「名前」

 幸村の澄んだ優しい声が、名前の名前を呼んだ。
 その瞬間、行き交う生徒達の喧騒が全て消え去り、まるで幸村と自分だけがこの世界に存在しているような、そんな不思議な感覚に陥った。

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