第6章 緑色ドロップ
「驚いた…どうしたんだい?」
急に顔を上げた名前に、幸村は些か目を丸くしたものの、すぐにいつもの笑みを浮かべ小首を傾げて見せた。
ーーその笑い方が、凄く…好きです。
じんわりと勝手に浮かんできた涙を、せめて零さぬようにと堪えながら幸村の手に縋りつくようにそっと自身の手を重ねた。
恋人同士が繋ぐように、指と指を交差させ、手のひら同士を密着させれば幸村の頬はほんのりと上気したのが見てとれた。
その反応に、少しだけ名前は嬉しくなった。
手を繋いで、頬が熱くなる…それは、今現在名前もそうだから。自分と幸村が同じ反応を示していてとても嬉しかったのだ。
「精市くんっ」
そんな声が、また聞こえてきた。
その声に、幸村は我に返ったように宮野の方へと視線をやり、その際するりと手が離れていってしまった。
嫌だ、と思った。幸村が、自分以外に笑みを向けるのが、嫌だと思った。
「幸村くんっ!」
だから、気がついた時には彼の事を呼んでいた。
名前と宮野に挟まれ、幸村は少し戸惑った顔をして二人を交互に見たあと、ぴたりと視線が名前に止まった。
とくん、
心臓が心地よく跳ね上がった。
ーー良かった、幸村くん…こっち向いてくれた…。
優しく微笑んだ幸村に、名前も同じように笑みを浮かべたーーが、
「ごめん名前、後で話聞くから。ちょっと待ってて」
何度聞いたか分からない無情にも聞こえる幸村のその言葉に、
みし
みし
みし
ぐちゃーー
淡く抱いていたなにかが、見るも無残に潰れた音がした。