第6章 緑色ドロップ
「ゆ、幸村くん…話がまだ、」
「ごめん名前、すぐ戻ってくるから、話はその時聞くよ」
「っ……そんな事言って、」
ーー幸村くん、あの時戻ってこなかったじゃない。
そう言葉が口をついて出そうになって、慌てて口を塞いだ。
そんな名前に、幸村は訝しげな表情を浮かべたが、宮野の急かす声に、少しだけ焦った様子を出しながら教室を出ていった。
宮野がおぶさるその後ろ姿を、名前はただ黙って、口に手を当てたままの間抜けな状態で見送った。
みし
ーーなんで?
「…なんで、宮野さんばかり見てるの?」
みし
みし
ぽつりと呟いた言葉は、クラスメイトたちの喧騒に紛れ誰に聞かれることも無く消えていった。
心臓が、痛かった。
話をしようとして、それを遮られ。幸村が宮野を優先したのは二回目だった。一回目も、二回目も、すぐに戻ってきて話を聞くと言った。しかし、一回目は戻ってこなかったし、今日改めてその話を聞いてくる気配もなかった。
忘れてしまったのだろう。
ーーどうせ、今回もすぐに戻ってこないんでしょ。
毛羽立ってしまった心のせいか、少しだけやさぐれたようにそう心の中で呟いた名前は駄目だ駄目だと強く顔を左右にふり席へと着き、二限目の授業の準備を始めた。
幸村は、二限目が終わるまで戻ってこなかった。
みし
二限目の授業が終わって少しした頃、宮野の肩を抱きながら幸村が教室へと入ってきた。
みし みしし
嫉妬で、吐きそうだった。
ぐるぐると目は周り、胸がむかむかと不快感に悲鳴を上げている。見ていたくなくて、机に突っ伏した。涙がすぐにでも出てきそうだった。
「名前、大丈夫?具合い悪いのかい?」
そんな優しい声が降ってきたかと思えば、幸村の手が優しく名前の髪を梳いてーーきゅう、と心臓が心地よい痛みを生み出した。
ーーそういうの、ずるいっ…。
顔を伏せたまま、きゅっと唇を噛み締めていた名前だったが、優しく耳触りのいい幸村の声が自分の名前をもう一度呼ぶものだから、勢いよく顔を上げた。