第6章 緑色ドロップ
「名前ちゃん!本当にごめん!二人でデートしてたのに私が電話掛けちゃったから…KYだ私…」
両手を顔の前で合わせ、申し訳なさそうに謝罪を述べる宮野に名前の頬はひくり、と少しだけ動いてしまった。
「大丈夫だよ、それより転けたところ大丈夫なの?」
「全然平気!なのに精市くんてばおんぶするって言って聞かなくてさ~」
「え?」
「大丈夫って言う割にには、泣いてたじゃないか」
みし
みし
頬を膨らませ不機嫌さをあらわせる宮野に、幸村は呆れたような表情を零し彼女の額を小突いた。
みし
ーー精市くん…て、名前で呼んでる…仲、いいんだなぁ。
ーー本物の、カップルみたい。
みし、みし
痛む頭。襲う吐き気。名前は机に突っ伏したくなった。現実を視界に入れたくなかったのだ。
仲良さげに話す二人に、名前はただ薄い笑みを浮かべるだけで、なにも言えなかった。口を開いたら、うっかり汚い言葉を出してしまいそうで、そうするしかなかったのだ。
そんな名前へとちらりと視線をやった幸村は、なにか思い出したように、そうだ名前…、となにか言いかけたが宮野がそれを制した。
「精市くん、早く席ついて、先生来ちゃうよ!」
「あぁ…そうだね。じゃあ名前また後でね」
「うん。またね」
柔らかい笑みを向けてくる幸村に、口元だけの薄い笑みを向けた。しかし、幸村はその歪な笑みに少しだけ眉を寄せつつも、宮野に背中を押され自分の席へと歩を進めた。
そんな彼を、ほんの数秒眺めたあとすぐに視線を外し、手元へと移動させた。少しだけ伸びた爪を、苛立たしげに爪同士をぶつけ擦り合わせていると、かたん、と隣から音が聞こえてきた。
宮野が席に着いた音だ。
教室に居るはずなのに、肩からーーいや、体全体から力を抜くことが出来ない。疲れるだけの一日が、始まってしまった。
軽く溜め息を吐きかけた名前の耳に、ふとーー
「負けないから」
と、凛とした強気な声が聞こえてきた。
隣から聞こえてきたその声に、目を見開き慌ててそちらへと視線をやったが、宮野はただ正面をーー幸村の背中を、見つめているだけで、名前の視線とかち合うことはなかった。