第6章 緑色ドロップ
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いつもより少しだけ遅い時間で家を出た名前は、小走りで学校まで向かい、教室に着いたのはSHRが始まる五分前だった。
いつもならもう五分ほど早い時間に着くのだが、出た時間がいつもより遅いのだから仕方がない。それに、間に合ったのだからセーフだ。
そんな事を思いつつ、自分の席まで行き鞄を机へと置けば、がらりとドアの開く音と楽しげなふたつの笑い声が聞こえてきた。
幸村と宮野の笑い声だ。
ぎくり、と。勝手に固くなる体にほとほと嫌気がさした。
少しずつ近づいてくるふたつの笑い声を、嫌でも耳ははっきりと余さず聞き取ろうとしている。
じっとりとした冷や汗が頬を流れ、それを拭いながら椅子をひきそこへと腰掛ければ、おはよう名前、と幸村の声が背中にぶつかってきた。
いつもと変わらない声音が、腹立たしかった。
「おはよう」
下手くそな笑みを浮かべながら、そう言葉を紡げば、いつもと変わらぬ笑みを浮かべる幸村とーーその横に、宮野も笑みを浮かべて立っていた。
どくん。
心臓が嫌な跳ね方をした。
二人肩を並べ立っている様は、まるで、カップルのようで。
ショートカットの黒い髪を、窓から吹いてくる風で遊ばせながら、彼女は八重歯を見せてにっこりと笑っている。改めて見ると、ボーイッシュに見えるが、とても可愛い子だ。
ーーどうしよう…クラクラしてきた。
笑みを顔に貼り付けているが、それは今すぐにでも崩れてしまいそうなほど危ういもので。出来ることなら話しかけて欲しくなかった、などと名前は非情な事を思っていた。
「名前、昨日連絡無かったけど…大丈夫だったかい?」
ーーあぁ、まずソッチの話題なんだ。
「うん、大丈夫だよ。ごめんね折り返し出来なくて。バタバタして忙しくて…」
「構わないよ。俺も悪いことしてしまったし。ほら、宮野からも」
「うん、そうだね」
明るい、可愛らしい弾んだ声と共に、一歩ーー名前の前へと足を踏み出した宮野。まるで、彼氏から挨拶をするようにと促された彼女のようだった。
みし