第6章 緑色ドロップ
それから数分間、朋子の幸村への怒りが爆発していたが、ふと壁掛け時計を見た名前は声をうわずらせた。
気づけば電話をして20分が過ぎていてあと数分で家を出る時間が迫っている。
「ご、ごめん朋子!私もう行かなきゃ!」
「えっ嘘もうそんな時間?!ごめん、長電話しすぎた!」
「謝らないでっ!寧ろこっちがごめんねだよ。けど、話聞いてくれてありがとう!すっきりしたよ」
明るい声を出しそう言った名前に、朋子は同じように明るい声で、あったりまえじゃない!、と言ってきた。
お互い声を出して笑い、通話を終えるとスマートフォンを制服のポケットへと忍ばせた。かさり、と何かが指に当たった気がしたが特に気にすることもなくそのまま手を抜き出し、ふとある事に気がついた。
ーーあ、さっきの話…内緒にしてねって言うの忘れてた……けど、ま、そんなの言わなくても大丈夫か。
名前は姿見を覗き込み、少しだけ腫れてしまった目にため息を吐いた。
色恋沙汰とは今まで無縁だった名前。恋愛が絡むと自分はこんなにもうじうじじめじめして、オマケに性格の悪さをこうも露呈するとは思わなかった。
ーー皆どうやって彼氏作るの?
相手に好きと言われても、それを信じられなかった。こんな自分を、と思っていた。しかし、自分も幸村に少しずつ惹かれていた事が分かってからは、幸村からの言葉はどれも嬉しかった。
可愛いと言われたり、好きだと言われたり。
キスをされた時は幸福感に包まれた。
それでも、幸村精市が、何を考えているのか分からなかった。自分も幸村と同じ立場にならないと分からないのだろうか?
「……もし、デート中に丸井くんから電話がかかってきたら…私は…」
ーー私は、どうしただろう?
そんな事をぼんやりと考えていたら1階から母親の、遅刻するわよー!、という元気な声が聞こえてきて我に返った。
先程時計を見た時よりも、気づけば5分経っていた。もう出なければ間に合わない。
「朝ご飯……は、まぁいいか、食欲ないや」
誰に聞かせる訳でもない独り言を、ぽつりとこぼしてから名前は部屋を出て階段を駆け下りたのであった。