第6章 緑色ドロップ
「ちょっ、ちょっと朋子…声大きいよ…」
きんきんと痛む耳を抑えながら、もう片方の耳にスマートフォンを押し当て朋子へとそう言葉を吐けば、ご、ごめん!、と慌てて謝罪の言葉を述べてきた。
「いや…じゃなくて!デート中止ってどういう事よ?!」
「…言葉のままの意味。あ、けど最初から中止になった訳じゃなくて、途中から中止になっちゃったの」
溜め息混じりに話しながら、そっとベッドへと腰掛けた。
ちらりとお気に入りの壁掛け時計を見れば、時間にはまだ余裕がある。
「は~?いや、尚更意味分かんないから!ちゃんと話なさいよ!ほら早く!」
「いやでも私だけの話じゃないから…」
「はーん?そんな事言っていいの?私はアンタがサボった時ちゃんと担任に休みって伝えてあげたのに?」
「うっ…そ、それは感謝してるけど…」
「感謝してるならさっさと吐きなさいよ!こっちは幸村から名前とデートするって聞いてからずっと気になってたんだから!」
電話の向こう側でばんばんと激しい音が聞こえてくる。きっと手をテーブルにでも叩きつけているのだろう。
名前は深いため息をひとつ吐き、少しの間だけ思考を巡らせた。
確かにいつも三人で行動していたし、幸村と朋子は幼馴染だ…今更隠し事もなにもないと思う。名前が口を閉ざしたところで、きっと朋子は今度は幸村の元へ行き問い詰めることだろう。
だとすれば、何処から何処まで話していいものか。
幸村に用事が出来て、帰ったと言えば良いのだろうか?間違えではないが、これはあまり名前にとっては的確な理由とは言い難かった。
ーー宮野さんの事が心配だから、私を置いて走って助けに行ったんだよ…なんて言えるわけない…本当に、私って性格悪いな。
頭を抱えながらまた深い溜め息を吐き、結局、幸村くんが急用出来て帰っちゃったの、とだけ答えた。
きっと、幸村本人は、それ以上でも、それ以下でもないはず。大切な友人が悲鳴を上げ電話を切った。それが心配で走って助けに行って、怪我をした彼女が心配だから付き添いたい。デートはまた今度に。
ーー幸村くんは優しいなぁ。
ぽつりと名前はそう思った。
ーー優しいから、無自覚で人を傷付ける。