第3章 白色ドロップ
男にしては珍しく、口に手を当て上品に笑いをこぼす幸村に、今更ながら自分の間抜けさに気づき頬を上気させた。
職員室が見当たらないから場所を教えてくれ、なんてなんとも間抜けな話である。
しかも幸村と離れてから既に30分ほど時間は経過していた。それほどまで時間をかけたというのに、未だ探し出せなかった間抜けな自分。あまりの恥ずかしさに名前は顔から火が出そうだったが、ぐっと堪えた。
幸村はそんな名前に気づいたのか、笑ってごめん、と謝罪を述べたあとゆっくりと口を開いた。
「職員室、行かなくても平気だよ。苗字さんのクラスはここだから」
言いながら教室の中へ来るように、と誘うように手を引かれ教室の中へと引き込まれた。
訳が分からず目を瞬かせたまま、教室へと入ってしまえば、教室内がざわついた気配を感じた。
流れるように視線をそちらへと向ければ席についている男女の生徒達が好奇心に満ち溢れた目を名前に向けているではないか。
ぎくりと思わず体を硬直させ、自分の腕を掴んでいる幸村へと視線を向ければ和やかに微笑まれ、ここが今日から苗字さんの教室だよ、と述べてきた。
* * *
自己紹介を終えた名前は、担任に言われた席へとゆっくりと向かいそこへ腰を下ろした。
一番後ろで、左から二番目の席だ。斜め左前には幸村が座っている。
名前は鞄を横にかけたあと、頬杖をついた。青学の机とは少し色味が違う机。今日から一年間この机にお世話になるのか…などと考えたあと、ふと幸村へと視線をうつす。
何故、先程幸村が名前を教室へと引っ張りこんだのか…答えは簡単だった。
待てども暮らせども職員室にやってこない名前に痺れを切らせた担任は教室に向かい、転入生の話をしたのだと言う。
校舎を迷っていたりした者を見なかったか?と生徒達に問いーーもしかして、と幸村が手を挙げ答えると探して来てくれ、と担任に言われたのだと言う。
ーーまさか同じクラスだったとは…。
こんな偶然あるんだな、なんて他人事のように感じながら、幸村から担任へと視線を移したのであった。