第6章 緑色ドロップ
「ま、丸井くん…電源落とした?」
「おう!」
「いや、おう!じゃなくて!」
満面の笑みで親指をぐっと突き出してくる丸井に、名前は思わず前のめりにずっこけそうになったが、なんとか持ち堪え咳払いをひとつ落とした。
そんな名前に、丸井は呆れたような溜め息を吐いたあと、不意に腕を掴み自分の胸へと引き寄せてきた。
急な事に頭がついていかず、されるがまま丸井の腕の中に収まってしまった。逃げようともがけば、すぐに丸井の腕が腰と後頭部に回ってしまい、ぴくりとも動けない。
急なことに驚き、離して!、と少しだけ怒りを滲ませてそう言う名前に丸井はなにも聞こえていないかのようにただ頭を優しく撫でつけてきた。
「よーし、よーし」
「ちょっと丸井くんっ、は、離してってば!」
「よーしよしよし、苗字は偉いなー。ちゃんと悩んで~偉いからもうやめような~よーしよしよし」
「…丸井、くん?」
少しだけ早口で言われるその言葉とは裏腹に、優しく頭を何度も何度も撫でられ名前はじんわりと目頭が熱くなるのを感じた。
「嫌なことあったんだよなぁ~どーせお前の事だから、堪えてたんだろい。人を傷つけないようにするお前はすげぇよ。よーしよしよし」
「ふっ…ムツゴロウさんみたい」
「おー。お前専用のな。ブンゴロウさん的な?」
「あははっ言いづらい~」
じんわりと浮かんでいた涙は、いつの間にか肌を滑り顎までいっていた。
無数の涙の粒を目から溢れさせるも、何故か悲しい気持ちはあまり顔を出してこなくて、それは、目の前にいる丸井のおかげなのだと名前は理解した。
丸井ブン太は、優しい。
会う度泣いている名前を、理由ひとつ聞かず毎回全力で元気づけようと"楽しませよう会"をしてくれる。
ーー丸井くんの彼女になった人は、幸せだろうな。
名前は泣きながらも、満面の笑みを浮かべ丸井にされるがまま頭を撫でられ続けた。
丸井の手は、丸井の体温は、丸井の声はーー名前の精神を酷く安定させ、気づけば丸井の腕の中で気持ちよく寝息をたてていた。