• テキストサイズ

【R18】ドロップス【幸村精市】

第6章 緑色ドロップ



 ーーけど、電話してくれたんだから、出ないと。

 そう頭で理解しても、心は素直に従ってくれずただ震える手でスマートフォンを握りしめるだけだった。
 嫌な汗がじわりと浮かび、少しずつ気分が悪くなってきた。今にも吐いてしまいそうだ。
 そのくらい、電話に出るのが嫌だった。
 と、その時…不意に、丸井の手がスマートフォンを隠すようにして視界に入り込んできた。名前はここで、丸井ブン太の存在を思い出した。
 反射的に顔を上げれば、テーブルを挟んで向かい側に居たはずの丸井がいつの間にか名前の横に座っている。
 早く出ろと急かすようにして鳴り続けるスマートフォンに、名前の視界から隠すようにして手を翳している。

「ま、丸井くん…?」

 戸惑いの表情を零す名前に、丸井は珍しく眉を寄せ複雑な表情を浮かべ、そっと口を開いた。

「出たくねぇんだろい?じゃあ、無理して出るな」
「でも…折角電話掛けてくれたのに」
「そう思うんなら、もうちっと嬉しそうな顔しろい。嫌そうな顔すんな」
「……ごめん」
「俺に謝ってどうすんだよ」

 溜め息が聞こえてきた。丸井のものだ。
 丸井ブン太は、いつだって自分の気持ちに真っ直ぐな人だと、名前は思った。自分に自信があり、それが言動にも出ている。しかし、それが鼻につくわけではない。
 いたって自然で、思わず関心してしまうくらいだ。
 
 ーー丸井くんは、かっこいいなぁ。

 嫌なら嫌と、あの時ーー幸村が宮野の元に行くと言った時、言えたらどれ程楽だっただろう。
 だが、言えなかったのは良く思われたかったから。重い女とか、思われたくなかったのだ。だからこそ、下手くそな笑みを浮かべて見送ったのだ。

「あーもう、ちょっと貸してみろい」
「えっ…ちょ、ちょっと!」

 未だ鳴り続けるスマートフォンと、未だに出るか出ないかで迷っている名前に痺れを切らせたのか、丸井は少しだけ大きな声を出したあとそれをひったくった。
 丸井の手に渡ってしまったスマートフォン。うるさく鳴っていたそれは丸井の指により静かになり、手元に戻ってきた。
 慌ててかけ直そうかとスマートフォンを弄ってみたが、ディスプレイは真っ暗なままでうんともすんとも言わない。

/ 291ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp