第6章 緑色ドロップ
「おっし、入った」
楽しげな丸井の声が耳に滑り込んできた。
はっと我に返った名前は流れるように視線をテレビ画面に向ければ、先程のアーティストの歌のタイトルが大きく表示されすぐにプロモーションビデオへと切り替わった。
流れるメロディーは軽快なもので、聞いてて思わず体が左右に動き揺れてしまう。
鼻歌混じりにソファから立ち上がった丸井はマイクを両手に持ち、片方を名前へと差し出してきた。
「えっ…う、歌えないよ?私この歌サビのところを数回しか聞いたことないし」
「ダンス教えてやるって言ったろい?この歌のダンスはマイクありきのやつだからな。っと…始まる。いいか?一番は俺が踊るからそれ見てろい。二番からお前も一緒に踊れよ?」
「…そんな無茶振り…」
相手の言葉に眉を八の字にする名前だったが、ダンスを覚えるため仕方なく丸井へと視線をやった。
マイクを片手で持ちながら、ノリのいい歌を歌い軽い動作で踊っていく。
そんな丸井に、思わず目を見開き驚いた。
声のトーンがまるでアーティストと違うというのに。まるで自分の歌かのように完璧に歌い、楽しげに踊る丸井に、名前は無意識に心臓を跳ねさせていた。
「うわっ…上手い…!凄い…!」
まるで、アイドルみたいだ。
名前はふとそう思った。薄暗い部屋の中で、歌って踊って笑う丸井が…名前にはとても輝いて見えたのだ。
思わず目を輝かせ自分を見つめてくる名前に、丸井はちらりとそちらへと視線をやると、
「天才的?」
なんて言ってウィンクをひとつ飛ばしてきた。気のせいか、頬がほんのり赤い気がした。
いつもと同じ言葉、同じ仕草な筈なのに。
何故だかその時の丸井は酷くかっこよく見えた。踊るたびに揺れる赤い髪やグレーの服がきらきらと輝いて見えて、思わずじっと見つめていると、次お前の番だぞ、なんて目配せをしてきた。
正直上手くできるか分からなかったが、それでも名前は丸井の真似をして歌を歌いながらダンスを踊った。
「おーおー、上手いじゃねぇか」
そんな丸井の声が、軽快なメロディーに混じって聞こえてきて、名前は自然と頬を緩ませた。