第6章 緑色ドロップ
反射的にそちらへと視線をやれば、先程の女性アーティストは終わったのか、また先程の男性アーティストがテレビ画面に映し出されている。
先程聞いたコメントと同じ事を、また耳にする。
「なんだお前、このアーティスト好きなのか?」
テーブルを挟んで向かい側に座った丸井がそう問うてきた。
「うーん…好きでも嫌いでもないかな」
そんな名前の言葉に、しゅわしゅわと泡をうみだしては消えていく緑色のメロンソーダを赤いストローでちびちび飲みながら丸井は、ふーん、とだけ言葉を返した。
ストローから口を離し、氷を底へと沈めるようにがしゃがしゃと音を鳴らしながら、丸井はなにか考える素振りを見せた。
緑色の海に沈んでいるストローの先端で氷をグラスの底へ押し付けた丸井は、軽く息を吐いたあとそっとグラスをテーブルへと置いた。
「俺な、このアーティストの歌結構好きなんだ。しかもこの曲ダンスもあってノリがよくて良いんだぜ」
「あぁ、さっき言ってた、それ。ダンスってどんなの?」
「繰り返しだから簡単だぜ?教えてやろうか」
そう言って得意気に笑って見せた丸井に、名前は吹き出すようにして笑ってしまった。本当に、自然に笑みが零れた事に自分でも驚いた。
しかし、その事に躊躇うことなく笑い続ける。不思議と胸の痛みやもやもやが少しだけ薄れているきがした。
「あはは、教えて教えて!楽しそう」
「いーぜ!あ、俺様の天才的なダンスに惚れんなよ?」
「うわー自信満々だ」
二人で顔を見合わせて笑いながら、名前はふと幸村を思い浮かべた。
ーー幸村くんとも、こんなふうに気軽に話せたらな。
友達だと認識していた時は、まだそれが出来ていた気がする。
しかし、不二周助に幸村への想いを諭された時からーー少しずつ名前の幸村への言動が違ってきていた。
幸村が笑えば頬が熱くなって照れたような笑いになってしまっていたし、ドキドキしたし、触れたいし触れられたいと思った。友達として接していた時は、そんな事全く思わなかったのに。
ーー幸村くん、今なにしてるんだろう。
デンモクを操作する丸井を眺めながら、名前はそんな事を思う。どうやら嫌でも幸村の事を考えてしまうらしい。