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【R18】ドロップス【幸村精市】

第6章 緑色ドロップ



 程よい暗さの部屋の中に、一人ぽつんと取り残された。
 テレビ画面には先程店内BGMとして流れていた曲を歌っている男性アーティストがなにやら楽しそうに話している。

『世の中楽しい事ばかりじゃない。いい事があれば必ず悪いことがやってくる。逆もまた然り、です。でも、だからってへこたれてばかりじゃただの弱虫です。うまくいかない時こそ、元気にならなきゃ!豪快に笑わなきゃ!って』

 ーー豪快に、笑う。

 幸村精市と出会う前は、悩み事や考え事など豪快に笑ってよく誤魔化していた気がする。そうすれば、嫌なことで頭を悩ませ時間を取られなくて済むから。
 だからこそ、ずっとそれを続けようとしていたのに。
 幸村精市と出会ってから、何度心の中で豪快に笑っても脳裏には必ず悩みの種が残っていた。幸村の事で悩み考える度に、笑い飛ばそうとしたが必ず残ってしまうのだ。黒い霧のようななにかが、脳と、心に。
 その黒い霧の中に幸村が必ずいて、頭の真ん中だったり、片隅だったり…必ず何処かでチラついているのだ。

『嫌なことなんて吹き飛んじゃうくらいのメロディー、歌詞、あとダンスも!兎に角色んなことに拘りました。是非踊りながら歌ってみてください!』

 そう言って白い歯を見せて笑って手を振るアーティストの横に、曲番号が映し出された。

 ーーダンスって、どんな感じのやつなんだろう。

 映し出されるテレビ画面には、もうアーティストも曲番号も消えてしまっていて、代わりに女性アーティストが映し出された。
 見た事も聞いたこともない女性アーティストを眺めていると、不意にドアが開く音が耳に滑り込んできた。反射的にそちらへと視線をやれば、両手がグラスで塞がっているせいか器用に肘でドアノブを押し中に入ってきた丸井が視界に入りこんできた。
 ん、なんて声と共に目前に置かれたグラス。名前が頼んだ飲み物が並々と入っている。ちゃぷん、と氷が飲み物の海へと身を沈めた。
 よくこぼさずに持ってこれたな…なんて思いつつも、ありがとう、と礼を述べれば丸井はいつもと変わらぬ笑顔で、おう!、とだけこたえた。その笑顔が、いつもよりとても眩しく思え名前はそっと目を伏せる。
 汗をかいているグラスを指で撫でつけながら、ぼんやりとその中身を眺めていたら、不意に先程の男性アーティストの声が聞こえてきた。

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