第6章 緑色ドロップ
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丸井が名前を連れてやってきたのはカラオケボックスだった。
名前が丸井とぶつかった場所からそう遠くはないところにあり、そこそこ人が入っているせいか店内に足を踏み入れると少しの騒がしさが鼓膜を刺激してきた。
天井から降り注ぐ店内BGMは今流行りのアーティストが元気を送るために作ったと言っていた気がする。そんな曲に混じって、受け付けで名前を書いている同年代の女子達の楽しげな声が聞こえてくる。
大きくも小さくもないカラオケボックスの店内は、少しだけ薄暗い気がしたがそれがかえって気持ちを落ち着かせ心地が良かった。
あのカフェから走って逃げ出す前、なにもかもが不快でしかたなかったというのに。今は何故かどれも心地よく感じられた。それは、繋いだ手から丸井の体温を感じているからだろうか?
それは名前本人にもよく分からなかったが、考えるのも面倒なのでやめておいた。元より、名前は考えることと悩むことが嫌いだし苦手なのだ。
それなのに、幸村と出会ってから悩んだり考えたりと脳を酷使している気がする。これならば、まだ三日三晩山積みの問題集を寝ずにとけと言われた方がマシだ、と名前は思った。
ーー答えのあるものは簡単で、答えのないものは難しい。
名前は脳裏に浮かぶ笑みを零す幸村に、軽く溜め息を吐いた。
受け付けを済ませ、指定された部屋番号を頼りに二階へとあがっていく。薄暗い店内の階段だが、きちんと掃除されておりどこもかしこもぴかぴかだ。
「よっし、ここだな」
階段を上りきった先にある部屋を、丸井は指さした。
訪問者が来ることを今か今かと待ち構えているような暗いその部屋のドアを開け、二人は中に入った。
電気をつければ、眩しいほどの光が名前の目を刺激してきたが、明るさを調節した丸井のおかげで程よい明るさとなった。
マイクとデンモクが入ったカゴをテーブルの上に置かれると同時に、そっと丸井の手が離れていった。寂しいと感じた。感傷的になっているせいか人肌が恋しいのだろうか?
そんな名前の心境などしりもしない丸井は、飲み物なにがいい?、と問うてきた。適当に答えれば、んー、なんて緩い相槌を零し早々に部屋を出ていった。