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【R18】ドロップス【幸村精市】

第6章 緑色ドロップ



 丸井の胸を借りてひとしきり泣いたあと、気づけば辺りは夕焼けに染まっていた。
 青かった空はオレンジ色に染まり、街全体をそれ色に染めている。その色に、丸井ブン太も染まっていた。

「おーし、んじゃ行くか」

 出るものも出なくなり、肩を落とし虚空を見つめる名前に丸井はいつもと変わらぬ様子で言葉を紡いだ。
 そんな丸井を、泣き腫らした目でじっと見つめた名前。化粧も髪もぐしゃぐしゃで、お世辞にも可愛い要素なんてひとつも名前にはなかった。
 だが、丸井はそれをいじるでもなにをするでもなく、ただいつものように名前と接している。
 一昨日と同じように、なにがあったとか、そういう事は聞かない。ただ、名前の気が晴れるようにとまたどこかへと連れていこうとしているのがわかる。

「…迷惑じゃないの?」

 自身が濡らしてしまった丸井のシャツの胸元を眺めながら、名前はぽつりとそう呟いた。
 先程よりは距離感がある二人だが、それでも二人の距離は近く傍から見れば恋人同士のように見えるだろう。そんな距離感だと言うのに、丸井も名前もさして気にした素振りも見せず視線を絡ませている。
 名前の言葉に少しの沈黙のあと、不意に、丸井が口を開いた。

「迷惑とか、思わなかったし考えたこともねーよ」
「…本当に?」
「おー、本当だっつうの。俺の言葉信じろい。いいから、元気ねー奴は迷惑だなんだ考えてねーで甘える事だけ考えてろい」

 そう言って、こつん、と額を小突いてきた丸井。その行為はよく幸村が小言を言いながら名前にやってきた行為だ。懐かしさを感じ、同時に寂しさと悲しさも感じた。

「…ありがとう…」

 泣き腫らした目を伏せ、小さな小さな声で呟くようにいった名前の手は、知らずのうちに丸井の服の裾を摘んでいた。
 まるで、助けを求めるように。
 まるで、縋るように。
 自分の服の裾を摘む名前のその震える手を一瞥したあと、そっとそこから手を離させ代わりに手と手を合わせた。指と指が交差して、丸井の指先が名前の手の甲をそっと撫で上げた。
 ぞくぞくした感覚が体を駆け巡り、名前は思わず目を伏せれば、丸井はなにを言うでもなく歩き始めた。

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