第3章 白色ドロップ
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名前はあまりの校舎の広さに目眩を感じていた。
校舎に入り、一階を廻ればすぐに職員室に着くだろうとタカを括っていた自分が甘かった…と、自分自身を責め立てた。
校舎へ入ってすぐ、職員室を目指し小走りしていたのだがーーさすが立海大附属中学校。マンモス校と呼ばれるだけあって、全く着かない。
行けども行けども教室、教室、教室。
しかも教室のドア上部にあるクラスプレートが、一組二組などではなくアルファベットで組が書かれていて、それにも地味に驚いてしまう。
ーーこんな事になるなら幸村くんに職員室の場所を聞いておくんだった。
痛む頭を抑えながら、今来た道を振り返った。
長い廊下は何処までも果てしなく続いているように見えてしまうほど、長い…。散々歩き周り、気づいた時はチャイムが鳴ってから三十分が経っていた。
ポケットに忍ばせていたスマホを取り出し、画面に表示されている時間を確認しながら名前は小さく溜め息を吐いた。
苗字名前という人間は、頭が良いのだが昔から色んな物事を軽んじる癖があった。
なんとかなるさ、どうにかなるさ、の精神なのか…はたまた何も考えていないだけなのか…真意は定かではないが、不二周助がいう彼女の"頭の弱い"という言葉にこれも入っている。
"新しい事に挑戦するなら、もう少し慎重にならないといけないよ"
不二周助は常日頃からそんな事を名前に言っていて、その度きちんと頷いてはいるのだが、彼女の身にしみてはいなかったようだ。
来たばかりの道を呆然と眺めたまま、立ち尽くしていると、不意にドアが開く音が耳に滑り込んできた。
背後から流れるようにして耳に滑り込んできたその音に、反射的に体ごと振り向けばーー幸村精市がそこにいた。
「あれ…苗字さん」
教室のドアに手をかけ、身を半分出した状態で名前の方へと僅か目を丸くし視線を向けている。
まさに天の助けだ!と名前は目に薄らと涙をため、慌てて幸村の元へと駆け寄り、職員室を探しているという旨を伝えると、キョトンとした表情をこぼしたあとクスクスと笑い始めた。