第1章 回想
「こまちまちこさんがさらわれて、責任を感じておられたんですよね。だから、てれび戦士ではなく、大野課長自ら、ここへ手がかりを探しにいらしたんでしょう?」
じわり、大野課長の黒目がちの大きな瞳が潤んだけど、私は気付かない振りをした。
「ありがとう。私のことを気遣ってくれたんだね」
キュッと両手を握られて、私はビックリした。大野課長の手は大きくて、とても温かかった。もう大野課長の瞳に涙はなくて、明るく微笑んでいた。
「君の言う通り、ここの温泉に入れて、本当に良かった。確かにつらい心がすうっと癒やされるような感じがしたよ。前向きな気持ちになれた」
「はい」
私達は微笑みあった。
「それで、ここの温泉に、こまちまちこが、しばしば訪れていたと聞いたが、こまちまちこの今の居場所の手がかりはないだろうか?」
この質問には、私は表情を曇らせることしか出来なかった。
「はい、残念ながら。こまちまちこさんがこの温泉を訪れていたのは、五郎さんに会えない悲しみを、温泉に浸かって癒やすためでしたから」
「君……風音くんは、こまちまちこと仲が良くて、いろんな話をしていたと、ご両親から聞いたが、何か、超次元帝国の話を、こまちまちこから聞いていないか?」
私は、深夜に一人で露天風呂に入ろうとして、バッタリとこまちまちこさんに会った、小学校低学年からのことを思い返した。
こまちまちこさんは、五郎さんのこととか、温泉のこととか、仲のいい他のどちゃもんのこととか、いろんな話をしてくれたし、私が話す、家族や学校の話も熱心に聞いてくれたけれど、超次元帝国の話は聞いたことがなかった。
私はしょんぼりと首を横に振った。大好きな友達のこまちまちこさんがさらわれたのに、私は何の役にも立てない。
「ごめんなさい。こまちまちこさんの行方につながるような話は聞いていないです」
大野課長は私の頭をそっと撫でてくれた。