第1章 回想
「私はね。風音ちゃんが五郎さんの生まれ変わりだったとしても、おかしくないと思うのよ?」
「えっ!? 私!?」
『ほらふきごろう』と呼ばれた、むくつけきマタギの男性が、自分の前世だったかもしれないとは、考えたくない。……でも。
「それもいいかな。私、こまちまちこさんのことが大好きだから。私が五郎さんで、こまちまちこさんが五郎さんにまた会えていたとしたら嬉しい。私じゃ、こまちまちこさんの恋人にはなれないけれど」
クスクスとこまちまちこさんが笑う。
「風音ちゃんは本当に優しい。そういうところが、五郎さんに似ているわ」
本当に五郎さんとの悲しい思い出は吹っ切れたんだなって分かる笑顔だった。
「ねえ、こまちまちこさんは、これからもずっと温泉の女神でいるんだよね。西暦2114年になって、大野課長……ううん、「時空関係調整課」の人達に会ったら、幸せでいるかどうか、確かめてあげてね。そして、もし、元気がなかったら、ここの温泉に案内してあげてね」
「風音ちゃんは、大野課長が好きだったものね?」
いきなり言われて、私は危うく足湯に滑り落ちそうになった。
実は、私は二度、大野拓朗課長に会ったことがある。
一度目は、大野課長が単身、さらわれた、こまちまちこさんの手がかりを探すために、この温泉に来た時。あれは、こまちまちこさんが超次元帝国にさらわれた直後のことで、極秘出張と言っていたけれど、私は手がかりを探す前に、まずうちの温泉に浸かることを強く勧めた。
一目見ただけで、大野課長がひどく焦って、疲れて、落ちこんでいることが分かったから。
私の予想通り、一風呂浴びて、出て来た時、大野課長の表情はまるで変わっていた。
「どうして、私に温泉に入ってくれ、その後でないと、何も教えないと言ったのかな?」
尋ねる大野課長に、私は誰にも、両親にすら言ったことのないことを教えた。
「こまちまちこさんが教えてくれたんですよ。ここの温泉は、傷ついた心を癒やす効果があるって」
「私が……傷ついていたと?」
大野課長は面食らった表情をしていたけれど、私は真面目な顔でうなずいた。