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ドルフィンを待つ夜【インディゴの夜】

第1章 出会い


 ぽんっとテツの頭を軽く叩いて、犬マンは笑顔で席を離れた。
「それでこそテツだ。風音ちゃん、ヘルプにならいつでも呼んでくれていいからね」
「……なんだ。私の空回りだったか」
 思わずソファにもたれて苦笑する風音に、テツが優しく笑う。
「風音ちゃんのそういう優しいところ、俺は好きだよ」
 その笑顔にドキドキしながら、風音はこっそり思う。
――やっぱりテツくんのこと、好きだな。
 ホストとしての言葉と分かっていても、テツは優しい。テツの言葉はいつも少し不器用だけど、真っ直ぐで温かい。indigoのメンバーはそういう人達ばかりで、だから、風音はこのホストクラブが好きなのだと思う。
 照れ隠しにぱくりと添えられたパセリを食べたら、テツが「風音ちゃんってパセリを絶対に残さないよね。苦くない?」と尋ねて来た。
「本気さんがヘルプについてくれた時にね、教えてくれたんだ。パセリって昔は『モテない女の代名詞』だったんだって。いわゆる昔の言葉で『嫁き遅れ』って言う意味だって」
 DJ本気はマッシュルームカットのオタクホストだが、古い話題に詳しい。テツが首をかしげた。
「なんでパセリがモテない女?」
「料理の引き立て役で、誰にも食べてもらえないからだって。それを聞いて以来、絶対にパセリは食べることにしているの。だって、なんだか悔しいじゃない。パセリだって、ちゃんとお料理の仲間だし、栄養価も高いのに、誰にも食べてもらえないなんて。……あ、これ、晶さんには言わないでね」
 indigoの美人店長の高原晶は、独身アラフォー女性。自立した素敵な女性だと風音は憧れているけれど、本人は年齢と結婚の話題が気になるお年頃らしい。
 クスクスとテツが笑った。
「やっぱり風音ちゃんは優しい」
 その笑顔を見て、テツが歩美だけを大事にするホストでなくて良かったと、風音は心から思った。
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