第1章 出会い
「でも、テツくんが歩美さんのことを好きなのは、常連客の私も見ていれば分かるよ。やっぱり応援してあげたいなって思うじゃない? indigoは普通のホストクラブとは違うから、指名のルールもゆるいし」
「応援か」
犬マンの表情がけわしくなった。それが不思議で、風音は首をかしげた。
真剣な顔で犬マンが問いかけて来る。
「もし……テツが、風音ちゃんの思っているようなヤツじゃなかったら、それでも、風音ちゃんはテツと歩美ちゃんのことを応援できる?」
眼鏡の奥の犬マンの瞳は暗くて、何を考えているのか分からないが、テツのことを心配しているようだった。犬マンがテツの何を案じているのかが分からなくて、風音は答えにつまる。
「私はindigoのホストとしてのテツくんしか知らないけれど、いい人だと思うし、幸せになって欲しいと思ってるよ」
「テツは最高にいいヤツだよ。それは俺も保証する。だけど、俺は風音ちゃんや歩美ちゃんみたいにテツに入れこんでいる子を見ていると……」
犬マンは言葉の最後を途切らせた。
「犬マンさん?」
「なんでもない。忘れて。それより、飲み物はどうする?」
「ドルフィンの水割りを頼んで来たところっす。風音ちゃんのキープボトルで。最初はいつもそれだよね?」
テツの声が割り込んだ。手にほかほかと湯気を立てたオムライスを持っている。
「わあ! それ、もしかして、ポンサックさんお手製のオムライス?」
「そう。俺からのお礼。おごるよ」
目の前におかれたオムライスは、昔ながらの少し懐かしい手作り風。風音の頬が自然とゆるんだ。
「ポンサックさんのオムライス、美味しくて大好きなんだ!」
「うん、知ってる」
にこにことうなずくと、テツは犬マンと反対側の風音の隣に座った。風音は歩美の座っているブースを見やった。温かい笑みとお人好しな性格が愛嬌のホスト、吉田吉男がヘルプとして入っているようだ。
「テツくん、歩美さんは?」
「歩美ちゃんだけが、俺の指名客じゃないから。ジョン太さんに『俺の指名客を根こそぎなくす気ですか!?』って文句言ったところっす。ちゃんと指名してくれるお客さんのことは全員、大事にします。犬マンさん、ヘルプにしちゃって申し訳ないっす」