第1章 出会い
情にもろくて、お節介なところのあるジョン太は、テツの指名客に、テツの恋の橋渡しをしてやって欲しいと頼んで回っているのだ。歩美がいる時はなるべく二人でいる時間を増やすなどの行動が、テツの指名客の暗黙の了承になっている。
――今夜もテツくんは歩美さんと一緒か……。
泣きたい気持ちをこらえて、風音はindigoのドアを開けた。 アフロ頭の男が「Welcome to indigo!」と叫んで飛び出して来る。このおちゃらけた男がindigoナンバーワンホストのジョン太である。ジョン太に風音はこそこそと耳打ちした。
「ジョン太さん。テツくんは歩美さんとこの後、同伴で来るから」
「歩美ちゃんと? オッケー♪」
「これ、ポンサックさんに渡してもらえるかな。テツくんの買い出しの品物、無理やり奪って来ちゃった」
ビニール袋を手渡すと、「おっ、悪いな! ありがとう!」と朗らかにジョン太は受け取った。
「テツはまだ帰ってないのか? 風音ちゃんの指名はテツだろう?」
後からやって来て、ジョン太に声をかけた、ナンバーツーホストの犬マンに、風音は慌てて言った。
「テツくんは同伴で遅くなります。私は今夜は犬マンさん指名でお願いします!」
「それは光栄だ」
さっと一輪のガーベラの花を差し出し、「では、お席へどうぞ、お姫様」と犬マンは風音を導いた。
犬マンと共にクラブ内のブースのひとつ、ふかふかのクッションが置かれた座席に風音がつくと、「遅くなってすみません」と謝りながら、テツと歩美が来店するのがちらりと見えた。歩美はそのままテツを指名するようだ。
テツは歩美をブースの席のひとつに案内すると、真っ直ぐに風音達のいるブースへやって来た。
「風音ちゃん、俺の頼まれた品物を代わりに届けてくれてありがとう」
「どういたしまして。私が勝手にしたことなんだから、気にしなくていいんだよ?」
「いや。お礼するから、ちょっと待ってて」
そう言って、テツは引っ込んで行った。
犬マンが風音を横目でにらむ。
「風音ちゃん、ホストクラブの基本は永久指名制。いくらジョン太にテツのことを頼まれたからって、指名ホストを急に変えるのはルール違反だよ」