第3章 初めまして、のその前に
「お手伝いの内容は、後日追って説明するとしよう。
医務室と長屋には三郎に案内してもらいなさい」
学園長先生の言葉に、目の前で疑いの眼差しで見てきていた鉢屋くんの視線が名前を呼ばれたことで外れ、短く息を吐く
初対面の人に目の前で凝視されるのは、息が詰まってしまう
無意識に握りしめていた手に、血が滲み痛みが走り、手を開く
「(これ、傷跡が残るかもなぁ…)」
痛みが走る手のひらに気づかないフリをして、視線を正面に戻す
「今夜はゆっくり休みなさい」
話に一区切り付き、学園長先生はそう言って優しく微笑んだ
元々目を閉じていて表情の変化が分かりずらいが、恐らく微笑んでいらっしゃる、はず…?
「では、天女様を送ってまいります」
「ありがとうございます、学園長先生」
鉢屋くんの声に、飛んでいた思考回路が正常になり短く挨拶をし部屋を後にする
「では天女様、こちらに」
「はい…」
私に背を向けて歩き出す鉢屋くん。
天女様呼びが気になり、また気の抜けた返事になってしまった。
けれど、彼ならいいかなという気がしてきた。
初対面のはずであるが、遠慮が家出してしまった、帰って来い遠慮。
今こそ君が役に立つ(?)時だろ…多分
「オイ、何百面相しているんだ」
「いえ、遠慮が家出したら質悪いよな、と?……えっ?」
思わず質問に返事をしたが、質問前についた言葉に気づき前を歩く彼を見上げると
「遠慮の家出とは、天女様の考えることは面白いですね」
「はぁ…?」
オイ、なんて言ったことはなかったかのように笑顔を浮かべている。
ただし、目は笑っていない上に、若干嘲笑な気が……。
「あぁ、此処から段差ですのでお気をつけて」
「あっ、はい」
丁寧に足元を照らしてくれる鉢屋くん。
先程の発言は、私の気のせいであったのか…そうであってほしいなぁ…。
歩き続けていると、両膝に鋭い痛みを感じた。
痛みは続いているが、歩けないことはないだろうと気にせず鉢屋くんを追いかける。