第14章 転入試験
「蒼井」
「とっ、どろき、くん」
わたしを呼ぶ、だいすきな声にどきりと心臓が跳ねる。あれから一言も交わしていないだけに、少し気まずいがみんながいる手前変な態度は取れない。…と、いうか。
轟くんも、来てたのか。なんて言おう、あれわたし、なんて言おうとしてたんだっけ。轟くんは、何、言おうとしてるんだろう。ああまって、何か言わなきゃ、何でもいいから、何か。
「…頑張ったな。」
「…!」
優しい手に髪を梳かれる。
緊張、していた。お互い思ってることが上手く伝わらずに、微妙な雰囲気のまま別れてしまったあの夜。もう一度、轟くんとちゃんと話が出来るのか、不安だった。
「あ、ありがとう…」
「ん」
不安と緊張の気持ち悪い動機が、安心と恋の動機に変わる。
ちらりと轟くんの顔を見上げると、目が合って微笑まれた。恥ずかしくてすぐ目を逸らしてしまったけど、まさに心は浮かれ模様。我ながらちょろい、ちょろすぎる女だ。
「そうだ!今日はもう夕方やから、今度あかりちゃんおめでとう会やらん?他のみんなも呼んで!」
「おっ、良いなそれ!」
「あ、ありがとね。でも、もうすぐ林間合宿でしょ、遊んでていいの?」
1日くらい大丈夫だよ、と麗日さんはわたしの手をぎゅっと握る。彼女の屈託ない笑顔を見ると、こっちまでつられて口角が上がる。
その後、詳しいことはメールで話そうとのことで話は纏まり、皆散り散りに帰って行く。わたしも、熱こそ引いたが個性を使いすぎて少し頭がだるい感じがする。この個性の多用による反動もなんとかならないだろうか、帰ったらお母さんに聞いてみよう。
「……蒼井、」
「うん?」
みんなの背中を見送った後、隣に立つ轟くんが口を開く。帰らないのかな、なんて思いつつもなるべく長く隣に居たくて何も聞かなかったけれど。
「…この前、悪かった。花火、全然見れなくて。」
「あ、ああ、全然大丈夫!寧ろごめんね、わたしが勝手に迷子になっちゃったから…」
病院でのキス事件といい、今回といい、何かと轟くんに謝らせてばかりだ。気にしてない、と言えば嘘になるが、今日は普通に話せた。それだけでわたしはかなり浮かれていたし、嬉しかった。
「…そうじゃねぇ、」