第14章 転入試験
「わ、わたしね。轟くんのこと、好き、なんです。」
「…え」
「…っあ!いやそんなあの、深い意味じゃなくて!いや深い意味、なんだけど、なんていうかその、と、友達として…?っていうか、人として好きって言うか……!」
わたわたと忙しなく動く目の前の少女に目を奪われる。正直、心臓が飛び出そうな程、びっくりした。普段はあんまびっくりとか、しねぇ方だと思ったんだけど。
後付けの様に零される言葉に安堵のような、落胆のような思いが湧く。
「だ、だからその~…、轟くんにされて嫌なことなんて一つもないよ、って話…!守ってくれてありがとう、でもこれからはわたしも轟くんのこと守るので!よろしく…っみたいな!話!」
「……」
変な事言ってごめんね、と蒼井は笑った。頬を真っ赤にして必死に言葉を紡ぐこいつが、どうしようもなく、愛しいと思った。好き、なのだと、思った。
それまで特に意識もしてなかった繋いだ手が、急にまずいことをしている気分になって手を離す。
「…と、轟く、」
「…わりぃ、なんでもねぇ。」
恋だの何だの、俺には一生縁がない話だと思っていた。親があんな風だった、結婚とか恋人とか、欲しいとも思わなかった。誰かにこんな気持ちを抱いたのは初めてで、どうしていいかわからない。
あの日、蒼井に口付けたのも、こいつと一緒に居た上鳴に酷くイラついたのも、全部。
「どっ、どうかした?気分悪い?リカバリーガールまだ居るかな…!」
「……なんでもねぇ、」
あまりに今更すぎる答えに、俺はしゃがみ込んで顔を隠した。とても、人に見せられるような顔をしているとは思えなかったから。