第14章 転入試験
屋上から下を見下ろすと、男と目が合った。
男に抱えられた女の子は、抵抗し疲れたのかぐったりと項垂れていた。早くなんとかしなきゃ、焦りが頭を支配する。
「お友達を逃がしたのか。美しい友情だな。」
「別に、友達じゃ、ないですけど。」
男はわたしの居るビルの1階を1振りで破壊する。激しい爆発音とぐらつく足元に不安を煽られ、無意識に地上にテレポートしてしまう。
男はわたしが移動する場所がわかっていたかのように、わたしが地上に移動すると同時に腕を振り下ろした。風圧で後ろにすっ転ぶ。
「ッた…」
「瞬間移動っていうのは、一歩間違えれば大怪我に繋がりかねない個性だ。そりゃ、目に見える安全な場所に飛びたくなるもの。お前の目を見ればわかるんだよ、次にどこに飛ぼうとしているのか、何をしようとしてるのか。」
わたしの視線を読んだのか、こいつ、意外と冷静だ。
…はっきり言って、殺してしまうのは簡単だ。そこらにある瓦礫をあいつの心臓にテレポートすれば良い。人を簡単に殺めてしまえる、わたしの個性はそういう個性だ。
でも、それじゃヒーローじゃない。
わたしは、ヒーローになる為にここに立ってるんだ。
「……良い目だ。」
わたしの瞬間移動の射程距離は200メートル程が限界。距離が遠くなればそれだけ精度も落ちる。できるかはわからない、できても、わたしの望む展開になるかもわからない。それでも、やるしかないから。
「…この試験会場、気温調節がしやすいように、ドーム状のガラスで覆われてるんです。それもかなり頑丈な。」
「それがどうした」
「ドーム状の建物の中で、最も重力が掛かっている場所。そこを壊してしまえば、それまで均衡していたバランスが崩れて、全部地に落ちます。」
男がハッと焦りを顔にする。わたしのやりたいこと、やろうとしていることに気付いたのだ。
「まっ、待て!君、雄英に入学したいんだろ!?そんなことしたら試験に落ちるかもしれないぞ!」
「わたし、ヒーローになりたいから誰かを助けるわけじゃないです」
落ちていた瓦礫の破片をドームのてっぺんにテレポートさせる。瓦礫がガラスのドームを貫いて、ぴきぴきと小さなひびが全体に広がっていく。
_____ガシャンッ!!
「誰かを助けたいから、ヒーローになりたいんだ!」