第14章 転入試験
「っ心操くん、立てる?」
「…ッバカ、お前、」
わたしは敵前に飛び出し、心操くんの手を取って立たせてあげる。そうだ、わたしヒーローになりたいんだ。心操くんも、あの女の子も、わたしが助けたい。
「心操くん、悔しいの、わかる。でも、わたし」
「わかってる。…悪かった。」
心操くんは服についた埃を払いながら、ぽつりと言葉をこぼす。
掴んだ手を離そうとする心操くんの手を、わたしは更に強く掴んだ。
「まっ、まって、離れないで」
「…!」
男がこっちに寄ってくる。あのとんでもないパワーをまともに食らっては大怪我どころじゃ済まない。何とか、心操くんを試験会場から出さなきゃいけない。
現状を把握するために、助けを呼んで貰うために。
「蒼井あかり、個性瞬間移動。これはまた良い個性だ。だが、」
男が片腕を上げる。来る。そう分かっていても、恐怖と緊張で足が動かない。またしてもわたしは、怖いからって逃げるのか。誰かの助けを待ってるだけの、弱虫でいいの?
「お前にも、用はない。」
眼前に大柄な男の姿。わたしに振り下ろされる拳。怖い、逃げたい。
でもその瞬間、やけに冷静で、やけに全てがスローモーションに見えた。男の腕が、男の顔が、良く見える。足は動かないけれど、頭は良く動いている。怖いけど、今のわたしは、守るものを背負っている。戦える。
「…!」
「ッは、」
咄嗟に風圧の被害の少ない建物の屋上に心操くんごとテレポートする。
ここなら、全体が良く見える。
瞬間移動を体験したのは初めてだったのだろうか、あんぐりと口を開いたまま言葉を発さない心操くんに向き直る。
「心操くん、今から君を会場の外に飛ばすので、助けを呼んできて下さい」
「…お前はどうすんだ」
「あいつが外に出たら大変だし、できるだけ時間稼ぎする。できれば、あの子も助けたい。」
「……」
またもや心操くんの眉間にしわが寄るが、今度はわかったと微かだが確かな答えが返ってきた。
心操くんの肩に触れ、会場の外に飛ばす。ここは入試の時のグラウンドとは違って、雨の日の訓練もできるようにドーム状のガラスで覆われているので、会場の外が良く見えた。
心操くんは一瞬だけこちらに振り返った後、校舎の方へ駆けていった。
「わたしは、わたしの、できることを。」