第14章 転入試験
「あいつが本物の敵なら、わたし達だけで対処する訳にはいかない。何かしらの原因で先生達が手を出せない状況なら、それが何なのか、知る必要があると、思って。」
こういう判断は得意じゃない。でもわたしが考える限りで最善なのは助けを呼ぶこと。
周りの建物を破壊し回っているあいつを見るに、とんでもないパワーの持ち主だ。下手をすれば大怪我なんかじゃ済まないくらいに。
「…なんで俺が。お前が行けばいいだろ」
「わたしはあの子を助けたい、…わたしの個性なら、それができると思う、ので。」
「俺にはできないって言うのか」
「そうじゃないけど、…もし、攻撃を受けた場合、反撃する手立てが心操くんには無いでしょ。」
雄英の体育祭を見た。心操くんの個性はすごいと思う。対人戦には強い個性だとも。
わたしの言葉を聞くなり、心操くんの眉間のしわは更に深くなった。プライドを傷つけてしまっていることはわかっている。でも、それでも、
「…ッ心操く、」
心操くんは心底悔しそうに眉を寄せた後、敵の眼前に飛び出していった。
心操くんの気持ちは、少なからずわかっているつもりだ。これは雄英高校ヒーロー科の試験。万が一、これも試験だったら。勝てば合格、逃げれば落第。そう考えたくもなる。
「…なんだお前は」
「……お前こそ、何なんだよ。何しに来た。今は試験中だぞ。」
わたしは物陰から心操くんの様子を伺う。やっぱり、怖いのだろう。冷や汗が頬を伝い、声は少し震えている。
当たり前だ。あのオールマイトを殺そうとしている連中かもしれない奴を相手に、ビビるなという方が無理な話。
「…心操人使、お前の問いかけに答えた者は洗脳される、か。良い個性だ。」
「…!」
洗脳、されていない。
いや、問いかけに答えてない。あいつ、心操くんの個性を知っている。
「悪いがお前に用は無い。人質も1人で十分だ。」
男が片腕をぶん、と振ると、風圧で崩れた瓦礫や建物の窓ガラスが割れ、心操くんごと吹っ飛ばす。
そんなばかな、腕を振っただけでこんな威力の風圧、ありえない。この人、本当に人間…?
「…ックソ!」
瓦礫と共に吹っ飛ばされた心操くんは、辛うじて大きな怪我はしてないようだった。が、悲痛な程に悔しそうな表情を浮かべ、がんッ、と瓦礫を殴る。
ああ、心操くんだって、本気なんだ。