第14章 転入試験
筆記試験の出来はまずまず。苦手な数学も半分くらいは解けた気がする、という感じ。
問題はそう、実技試験だ。
入試の時と違うのは、0点の仮想敵が居ないこと、それと人数だ。
試験に挑むのは筆記を共に受けた2人。入試の時は他の人に先を越されなかなかポイントを稼ぐことが出来なかったが、今回この人数なら、わたしにも勝機があるんじゃないか。そう思ってしまう。
「アンタ、轟焦凍の何なの?」
「えっ」
試験会場の前で待機中、他校の女の子から出た言葉。
轟くんのこと知ってるの?っていうか、何なのって、何なんだろう。
即答できずに数秒黙ると、女の子は溜め息を付きながら口を開いた。
「私ね、轟焦凍の婚約者。だからもうあいつに近づかないでくれる?」
「こっ婚…ッ!?」
「じゃあね。」
婚約者。結婚を約束された相手のことだ。
轟くん、婚約者なんか居たんだ。そりゃ、あのエンデヴァーの息子だし、居てもおかしくないけれど。
胸がざわつく。動揺とショックで高めていた集中力が全て散った。
いや、轟くんを突き放してしまったわたしにショックを受ける資格なんてない。そう思って再度深呼吸するけれど、心臓がずきずきと痛む。
初恋は実らない、とは良く言ったものだ。先日まであれだけ色鮮やかだった心が今では真っ黒に曇ってしまった。今は試験に集中しよう。そう思っても、思春期真っ盛りのわたしにとって轟くんに許嫁が居るという事実は、このまま人生を放棄してしまえそうな程悲しいニュースだった。
…とは言え、轟くんとわたしが雄英に入りたいことに何の関係もない。
試験開始の合図が鳴ってはっと我に返る。痛む心を押さえつけながら、わたしは擬似的な街の中に走って行った。
今はただ、目の前のことに集中しなくては。